ひとことで言うと
AIが自分で考えて、複数の資料の棚から必要な情報を何回も探しに行ける新しい仕組みを、プログラムで簡単に組み立てられるようになりました。従来の一度きりの検索にとどまらず、複数ファイルをまたいだ正確な回答を引き出すための基盤が整いました。
何が発表されたのか
AWS Machine Learning Blogの公式発表によると、Managed Amazon Bedrock Knowledge Base(マネージドナレッジベース)とAWS Cloud Development Kit(AWS CDK)を組み合わせ、エンタープライズ向けのエージェント型検索システムを構築する手法が公開されました。従来の単発の検索とは異なり、推論を行うエージェントが検索の必要性や参照先を自ら判断し、複数回にわたる検索を経て引用付きの回答を生成する仕組みを、単一のPython製CDKアプリケーションとして一括デプロイできるようになっています。
これまでの流れ
サイソクが過去に報じた関連ニュースとして、AWS週刊アップデート:Bedrockの構造化出力対応やNeuronネイティブPyTorch解説(2026年10月26日公開、提供中、AWSの標準料金に準拠)では、Amazon Bedrockの機能拡張や関連する開発者向けのアップデートが伝えられていました。今回の発表は、そうしたAmazon Bedrockの周辺機能の進化を受け、知識ベースを活用した高度なエージェント検索の具体的なインフラ構築パターンを提示するものです。
従来の検索手法の限界とエージェント型検索への進化
従来の検索拡張生成(RAG)システムは、質問をベクトル化し、一つのインデックスから最も近いチャンクを一度だけ取得してモデルに渡すという「1回検索・1回生成」のパイプラインで動いていました。この方式は多くの定型的な質問に対しては正しく機能しますが、回答が複数のコーパスにまたがる場合、部分的な情報しか得られずに不完全な回答を生み出す原因になっていました。また、質問の内容に応じて適切なソースを動的に選び分けたり、最初の検索結果を見た後で再度別のコーパスを確かめたりする柔軟性を持っていませんでした。今回導入されたエンタープライズ向けのエージェント型検索では、推論を行うエージェントがループの内部に組み込まれており、検索を行うべきか、どの知識ベースを参照すべきか、追加の検索が必要かを自ら判断してから回答を組み立てる仕組みを実現しています。
マネージド知識ベースと従来型(DIY)の比較
Amazon Bedrockで新たに提供されているマネージド知識ベース(Type: MANAGED)は、データの取り込み、ストレージ、インデックス作成、検索のすべてをサービス側が管理する仕組みです。ユーザー自身でベクトルデータベースをプロビジョニング、スケーリング、パッチ適用する必要があった従来の顧客管理型(DIY)ナレッジベースとは大きく異なります。具体的な違いを比較表に整理します。
| 項目 |
Amazon Bedrock マネージド |
顧客管理型(DIY) |
出典 |
| エージェント型検索(AgenticRetrieveStream) |
サポートあり |
サポートなし |
元記事 |
| AgentCore Gateway 連携 |
サポートあり |
サポートなし |
元記事 |
| データストア管理 |
自動スケーリング・完全マネージド |
ユーザー自身でプロビジョニング・維持 |
元記事 |
| 埋め込み・リランク処理 |
組み込み済みマネージドモデル(追加費用なし) |
ユーザー自身で設定 |
元記事 |
マネージド知識ベースを採用することにより、OpenSearch ServerlessのコレクションやOCU(OpenSearch Compute Units)の容量を管理する必要がなくなります。一方で、独自のベクトルストアを再利用したい場合や厳格なデータ要件がある場合には、顧客管理型の選択肢も引き続き有効とされています。
監視機能と評価レイヤーの統合
エージェントが自律的にループを回しながら推論と検索を行うシステムでは、すべての質問で異なるパスを通るため、システムの動作や品質を可視化することが不可欠となります。今回の構成では、監視と評価の機能があと付けではなく、最初からインフラの一部としてプロビジョニングされる仕組みになっています。Amazon CloudWatchの2つのダッシュボードが7層のテレメトリを網羅し、オンデマンドおよび継続的な評価を同じデプロイメントから同時に実行可能です。引用元が正しくトレースされることで、モデルの出力がソースから逸脱していないかを監査しやすくなっています。
CDKによる4つのスタック構築
今回のソリューションでは、AWS CDKのPythonアプリケーションを用いてインフラ全体を管理します。コード内では、知識ベースを定義するスタック、AgentCore Gatewayを管理するスタックなどが相互に参照し合い、依存関係が自動的に導出されます。Gatewayは各知識ベースをModel Context Protocol(MCP)ツールとして外部に公開し、AgentCore Runtimeで稼働するエージェントがIAMタスクロールとSigV4署名を用いて安全に呼び出しを行います。これにより、手動によるスタックのエクスポートや依存関係の管理ミスを防ぐ設計となっています。
料金・提供プラン
元記事では具体的な月額料金や無料枠についての言及はありません。Amazon Bedrockおよび関連するAWSサービスの標準的なAPI従量課金およびリソース利用料に準拠します。
日本から使う方法
Amazon Bedrockが提供されている対応リージョンにおいて、AWS CDKを用いた環境構築を行うことで今日から導入を検証できます。具体的な手順は次の通りです。
- AWS CDKの実行環境(Python環境)をローカルまたはクラウド上に用意する
- 公式ブログで公開されているサンプルリポジトリのコードを参照し、プロジェクトを初期化する
- 知識ベース用のデータをAmazon S3バケットに配置する
- デプロイコマンドを実行し、マネージド知識ベース、Gateway、Runtime、監視ダッシュボードをまとめてプロビジョニングする
誰にどう効くのか
開発者やクラウドエンジニアの立場では、複雑なベクトルデータベースの管理やクロススタックの依存関係を手動で調整する手間が大幅に削減されます。企画・マーケティングの立場では、複数の資料にまたがる複雑な問い合わせに対しても、根拠のある正確な引用付きの回答を自動生成する高度なAIアシスタントを実用化できるようになります。経営層の立場からは、監視や評価レイヤーが標準で組み込まれていることで、生成AIシステムの動作の透明性が担保され、安全な社内展開を進めやすくなります。
まとめ
マネージド知識ベースとAWS CDKを組み合わせることで、高度なエージェント型検索システムを効率的に構築できるようになりました。まずは公式ブログのサンプルコードを確認し、自身の開発環境でCDKデプロイを試してみることから始めましょう。