概要
AIのClaudeをつくるAnthropicが、新しい薬づくりにClaudeを使った成果を発表しました。製薬やバイオ企業など6つの組織と、数か月いっしょに研究した結果です。
薬の設計、製造の書類チェック、試験の計画づくりなど、薬づくりの色々な作業でClaudeが役に立つことが示されました。薬の研究をしている人にとっては、時間のかかる作業が短くなる話です。
ただし、まだ人に使う前の研究が中心です。薬が完成したわけではありません。
何が発表された?
Anthropicの公式ニュース(2026年10月28日付)によると、同社のライフサイエンスチームは過去数か月、6組織と共同研究をしてきました。
6組織は次のとおりです。
- BigHat Biosciences
- Bristol Myers Squibb(BMS)
- Divergence Labs
- Enveda
- Generate Biomedicines
- The Column Group(TCG)
加えてAnthropicは、自社でも創薬の取り組みを始めました。子どもの希少な筋ジストロフィー(筋肉が弱っていく病気)が対象です。
位置づけは、製品の発売ではなく研究成果の報告です。元記事自身が「ほとんどは前臨床(人での試験の前)」と認めています。Anthropicは今後この取り組みを大きく広げる方針です。
前と何が違う?
AIの創薬というと、新しい分子の設計案を出す話が有名です。元記事は、それ以外にも速くできる工程が多いと指摘します。薬づくりの詰まりは、一か所ではなく全体に散らばっているという考えです。
設計:がん治療の部品を約70%短く(Generate Biomedicines)
Generateは、血液のがんに使われてきたCAR-T細胞療法を、固形がんにも使えるようにしようとしています。そのために、治療の遺伝子の指示書の一部を短くし、別の指示を入れる余地をつくりたいのです。
科学者6人がClaude Codeを使って新しい設計案を出しました。そのうち1つは標準版より約70%短く、実験で効果が高かったそうです。免疫細胞がつくる受容体(がん細胞を見つけるタンパク質)は約10倍になりました。腫瘍細胞をより効率よく倒し、免疫細胞が長く働き続けたとされています。
候補づくり:約1か月で約35,000の抗体設計(Divergence Labs)
Divergence Labsは、食物アレルギーの新しい治療を研究しています。血中を漂うIgEを抑える従来の薬と違い、免疫細胞からIgEを引きはがす薬を目指します。
そのため、IgEにしっかりつく腕と、引きはがす腕の2本が要ります。Claudeは目標を設計計画に落とし込み、大部分を自律的に進めて約35,000の抗体設計を約1か月で出しました。
初期の試験では、IgEに結合する設計が3つ、引きはがせる設計が20見つかりました。うち3つは標準薬より引きはがす力が強そうでした。次は2本の腕を合わせた薬づくりです。
改良:約1,010の変異体を約10週間で試す(BigHat Biosciences)
BigHatは、AIと自動化ラボで薬の候補を改良しています。抗体の断片2つについて、結合の強さ、安定性、固まりにくさを高めることが課題でした。
ClaudeはBigHatのラボデータシステム「Reccy」とつながり、変更案を出しました。ラボは約10週間で約1,010の変異体をつくって試しました。途中で標準の安定性指標が誤解を招くと疑い、Claudeと研究者が生データを分析し直して別の指標を提案しています。主な予測は当たったそうです。
最良版は元より10倍以上強く結合しました。がん向けの候補は溶けた状態を18℃高い温度まで保ち、長持ちする薬向けの候補は100倍以上ゆっくりしか固まりませんでした。
書類:確認時間を89%短縮(Enveda)
治験には、薬の各製造ロットが厳しい品質基準で作られた記録が要ります。Envedaでは、製造の化学者が最大で時間の75%を書類仕事に使っていました。
そこで製造書類をすべてClaudeにつなぎ、問題の可能性を指摘させる仕組みを作りました。1,061ページの試験では、人が見つけた11件をすべて検出し、人が見逃した7件も指摘しました。人の確認時間は25時間超から3時間未満になっています。
さらにClaudeは、規制当局向けの重要書類2つの初稿も書きました。1つは4時間で、手作業なら約3か月かかるものです。もう1つは通常の人の確認で軽微な誤りが1件見つかったとされています。
会社づくりと治験計画:TCGのPleiadesとBMS
TCGは、Claudeで多くの創薬計画を少人数で回す新会社Pleiadesを立ち上げています。最初のスキルは、創薬の標的が追う価値があるかを評価するもので、45組の標的と病気の組み合わせで評価されました。
BMSは、初期の治験計画の評価と、成功確率の見積もりにClaudeを使っています。幹部は、1つの指示から、通常は数日かかる初期分析が得られたと語っています。2027年に取り組みを広げる計画です。
自社研究:Mithril Medicineを買収
Anthropicは、筋ジストロフィー2種の治療を研究する1人会社Mithril Medicineを買収しました。創業者のCody Tranbarger氏はClaudeで11の外部ラボとの契約や実験を整理しました。結果、1つの治療案を18か月未満で、アイデアからマウスでの有望な結果まで進めたそうです。順調なら、人での治験は早くて2028年末と見込まれています。
数字で見るとどう変わった?
比べられる前後の数字は、Envedaの書類確認だけです。
書類確認は25時間超から3時間未満へ。人の見落としも拾えた。
| 比べること |
前 |
今回 |
変化 |
| 書類確認の時間(Enveda) |
25時間超 |
3時間未満 |
89%減 |
| 規制書類の初稿 |
手作業で約3か月 |
Claudeで4時間 |
大幅に短縮 |
そのほか、比べる相手のない数字です。
- CAR-Tの設計:標準より約70%短く、受容体は約10倍
- Divergence Labs:約35,000設計、結合3つ、引きはがし20
- BigHat:約1,010変異体、結合10倍以上、18℃高い安定性、固まりが100倍以上遅い
- Pleiades:45組で評価
これらは各社の初期の報告で、条件も異なります。他の方法との公平な比較は元記事にありません。
ライバルと比べてどう?
元記事には他社との比較はありません。以下は編集部の知識による補足です。
(編集部注)AI創薬は新しい分野ではなく、Google DeepMind系の取り組みなど、構造予測や分子設計に強い専門AIが先行してきました。今回の特徴は、分子設計だけでなく書類、計画、会社運営まで言語モデルに任せる広さです。
編集部としては、ここが強みでも弱みでもあると見ています。幅広く使える反面、各分野の専門AIとの優劣は示されていません。
料金は?
元記事では価格の言及なしです。共同研究の条件も書かれていません。
研究者向けに、Claudeのクレジット提供と、AIの作業台「Claude Science」を展開しているとだけ触れています。
日本で使える?
まだ分かりません。元記事に日本での提供状況の記載はありません。
試すなら、次の順で確認するのが現実的です。
- 元記事の問い合わせ窓口で、創薬組織向けの共同研究の条件を確認する
- Claude Scienceと研究者向けクレジットの対象を、公式情報で確かめる
- Life Sciences Verification Program(信頼できる組織に、安全策をゆるめた版を提供する枠)の条件を確認する
- ゲスト研究者の公募の対象を確認する
いずれも対象地域や条件は元記事にないため、公式の最新情報での確認が必要です。
自分にはどう関係する?
エンジニアなら
Envedaの例のように、社内文書をClaudeにつないで指摘させる仕組みは、他の業界にも応用できます。BigHatの例では、ラボデータとつなぐ設計が成果を支えました。専門データとの接続が実務の鍵になりそうです。
企画・マーケティングなら
医療・バイオ関連の企画では、AIを工程全体に使う動きが具体化した点が材料になります。ただし、効果は初期報告で、薬の効果は証明されていません。表現には慎重さが要ります。
経営者・管理者なら
事務や書類の負担が大きい現場ほど、効果が見えやすいと読めます。TCGのPleiadesは、少人数で多くの計画を回す会社モデルの実験です。編集部としては、成功の実績が出るまでは過度に期待しない方がよいと考えます。
まとめ
今回の成果は、薬づくりでAIが働ける場所が広いことを示しました。一方で、ほとんどは前臨床で、効く薬になるかはこれからです。
創薬に関わる方は、元記事の窓口や研究者向けプログラムの条件を確認してください。それ以外の方は、治験が始まる2028年末ごろの見込みまで、続報を確認するのがよいでしょう。