概要
OpenAIは、スウェーデン発のリーガルテック企業「Legora(レゴラ)」におけるAI活用事例を公開しました。
Legoraは、弁護士や企業法務の担当者が日々の業務全体にAIを組み込めるようにする専門プラットフォームです。
膨大な契約書の中から重要条件を抜き出す作業や、企業の買収時における事前調査(デューデリジェンス)を自動化できます。
これまで人間では時間が足りず手を出せなかった範囲まで分析できるようになり、法務の現場に根本的な変化を起こしています。
何が発表された?
今回発表されたのは、OpenAIの事例紹介シリーズ「Intelligence at Work」の一環として制作されたドキュメンタリー映像と公式取材記事です。
スウェーデンのストックホルムに本社を置くLegoraが、どのような経緯で誕生し、どのように業務を変革しているかが明らかになりました。
Legoraはすでに法人向けにサービスを提供中の一般提供(GA)製品です。
同社はOpenAIの「ChatGPT」やプログラミング支援AI「Codex」、各種大言語モデルをインフラとして組み込んでいます。
利用対象および主な用途は以下の通りです。
- 法律事務所における大量の契約書チェックとリスク分析
- 企業の法務部門による案件調査およびコンプライアンス確認
- 企業買収(M&A)時のデューデリジェンス業務の自動化
前と何が違う?
動画内のデモ画面や登壇者の解説から判明した、従来の法務実務との具体的な違いを整理します。
10,000件の契約書をわずか数分で一括整理できる
従来、何千もの契約書を人の手で確認するには数週間以上の時間と膨大な人件費が必要でした。
Legoraのデモ画面では、ユーザーが「@」で関連文書を指定し、「/」で実行するスキルを選ぶ操作が確認できます。
「環境関連の条項はあるか」「エネルギー性能評価(EPC)の最低基準を満たしているか」「ESGの数値目標はあるか」といった10項目の質問を設定します。
コマンドを送信すると、AIが10,000件の契約書ファイルを並列処理します。
わずか数分で、全ファイルの抽出結果がスプレッドシート(表形式)で一覧出力されました。
編集部の見立てでは、この一括抽出機能だけでも法務の下準備時間が9割以上削れると感じます。
チェック対象が「上位10%」から「100%全件」に広がる
Global Head of Legal EngineeringのAlex Fortescue-Webb氏は、従来の法務現場の限界を指摘しました。
時間が限られているため、これまでは金額が大きい「上位10%の最も価値が高い契約書」しか詳細にチェックできませんでした。
残りの90%の契約書は、リスクが潜在しているにもかかわらず十分な確認ができないまま放置されがちでした。
Legoraを導入することで、上位10%の契約書には人間がより深い分析時間を割けるようになります。
同時に、残りの90%についてもAIを使って即座に全件チェックできるようになりました。
AIエージェントがデューデリジェンス(DD)を代行する
General Counsel(法務責任者)のEmma Kadri Bergström氏は、AIワークフローによるフルデューデリジェンス(事前調査)の実効性を語りました。
担当者がAIエージェントに指示を出すと、エージェントが自律的に契約書のレビューや分析作業を開始します。
作業が完了すると、人間がレビューすべきポイントだけが整理されて提示されます。
人間はゼロから書類を読む必要がなくなり、AIが出した結果の最終確認に専念できます。
少人数チームで18拠点の急成長と5件の買収に対応できる
Legora自体の社内法務での活用実績も具体的に提示されました。
同社は過去12か月間で、オフィス数を3拠点から18拠点へと急速に拡大しました。
さらに3回の資金調達を実施し、同年間で5件の企業買収を完了させています。
本来であれば大勢の法務スタッフが必要な作業量ですが、自社のLegoraを活用することで非常に小さなチームのまま乗り切りました。
編集部としては、スタートアップや中堅企業の法務コスト削減において決定的な事例だと評価します。
数字で見るとどう変わった?
動画内で示されたLegoraの数値指標と成果を整理します。
大量の契約書審査において、従来のサンプル調査から全件調査へと質的転換を達成した。
| 比べること |
前(従来のやり方) |
今回(Legora導入後) |
変化 |
| 契約書のチェック範囲 |
最も重要な上位10%のみ |
上位10%の深掘り+残り90%の即時チェック |
全件(100%)に拡大 |
| 10,000件の分析時間 |
数週間〜数か月 |
わずか数分 |
大幅な時間短縮 |
| 自社の拠点数拡大 |
3拠点 |
18拠点 |
6倍に拡大 |
| 年間買収件数の処理 |
手作業で限界あり |
5件の買収を小チームで完了 |
小規模体制で達成 |
ライバルと比べてどう?
今回の発表内容を、リーガルテック分野や一般的な競合ツールと比較します。(※競合ツールの仕様は編集部の調査知識に基づきます)
リーガルテック業界には、HarveyやCoCounselといった先行するAIプラットフォームが存在します。
また、AnthropicのClaude 3.5 SonnetやGoogleのGemini 1.5 Proも、長い文章(ロングコンテキスト)を一括で読み込む能力を備えています。
単なる長文要約ではなく、法律実務に特化したUIとAIエージェントの組み合わせが特長。
Legoraの優位性は、F1マシンに例えられる専用の操作画面(UI)にあります。
「@」による文書検索や「/」による定型スキルの呼び出し、結果を自動でスプレッドシート化する機能など、弁護士のワークフローに最適化されています。
エンジン部分にはOpenAIのGPTシリーズやCodexを採用しており、モデルが進化するたびにシステム全体の速度と精度が自動的に向上する構造になっています。
編集部の見立てでは、汎用AIチャットを使うよりも、Legoraのような専用プラットフォームを導入する方が、現場の定着率は格段に高くなると考えます。
料金は?
動画内では、Legoraの具体的な利用料金や課金プランについての言及はありませんでした。
一般的に、この種の法人向けAIリーガルプラットフォームは、年間契約のB2B SaaSライセンスとして提供されます。
企業の規模や利用する弁護士数、処理するドキュメント量に応じた個別見積もりとなるケースが主流です。
無料お試し枠の有無についても動画内では示されていません。
日本で使える?
部分的に利用可能と考えられますが、導入には注意が必要です。
Legora自体はグローバル市場向けに展開されていますが、Webサイトからの直接申し込みや日本語でのサポート体制は公式発表を確認する必要があります。
日本のユーザーが試す際のポイントは以下の通りです。
- Legoraのサービス利用には、公式Webサイトからの問い合わせや法人デモのリクエストが必要です。
- エンジンとして動いているOpenAIのモデル自体は日本語に完全対応しています。
- 日本の法律や和文契約書の解析能力については、日本の法体系に特化したプロンプト設定やカスタマイズが必要になる可能性があります。
- 秘密保持条項(NDA)やデータの漏洩対策について、OpenAIのEnterprise基準を満たしているか事前の確認が推奨されます。
自分にはどう関係する?
エンジニアなら
LLM(大規模言語モデル)を特定業界の専門業務に組み込む「バーティカルSaaS」の成功パターンとして非常に参考になります。
単にAIの回答を表示するだけでなく、スプレッドシート形式での出力や「@」「/」による直感的なUI設計など、UX(ユーザー体験)の作り込みが参考になります。
OpenAIのモデル更新を「エンジンの積み替え」として捉え、自社アプリケーションの価値を高めるアーキテクチャ設計の好例です。
企画・マーケティングなら
「これまで10%しか手を出せなかった作業を、残り90%までカバーできるようにする」という価値提案の力強さに注目すべきです。
単なる「時間短縮(コスト削減)」だけでなく、「分析対象の拡大によるリスク低減(価値向上)」をアピールするマーケティング手法は、自社製品の企画にも応用できます。
経営者・管理者なら
法務やコンプライアンスのボトルネックを解消し、事業成長のスピードを上げる鍵になります。
Legoraの事例のように、12か月で拠点数を6倍にし、5件のM&Aを少数精鋭でやり遂げるような機動力が手に入ります。
法務コストの削減だけでなく、案件の意思決定スピードを劇的に上げる投資としてAI法務ツールの検討価値があります。
これまでの流れ
- 2022年11月: OpenAIがGPT-3.5(ChatGPT)を公開。Legora創業者のMax Junestrand氏が大学中退を決意。
- 2023年: Legoraが設立され、OpenAIのモデルを活用した法務プラットフォームの開発を開始。
- 2024年: 12か月間で拠点数を3から18へ拡大し、3回の資金調達と5件の企業買収を達成。
- 2026年10月28日: OpenAIがLegoraの導入事例「Intelligence at Work」として動画および詳細記事を公開。
まとめ
Legoraの事例は、AIが弁護士の仕事を奪うのではなく、弁護士の能力を何倍にも拡張することを示しています。
これまで時間の制約で諦めていた90%の書類チェックが可能になり、リスク管理の精度が劇的に向上します。
読者が次に取るべきアクションは、自社の法務プロセスで「時間が足りずにサンプリング調査で済ませている作業」を洗い出すことです。
その作業にChatGPTや専門AIツールを試してみることが、法務DXの確実な第一歩となります。