概要
科学技術振興機構(JST)などの研究グループが発表しました。ショウジョウバエの睡眠を促すすたんぱく質から、さまざまな菌の増殖を抑える小さなペプチドを見つけたと発表しました。ペプチドとはアミノ酸がつながった物質です。このペプチドは、従来の薬が効きにくい薬剤耐性菌に対しても効果を示します。細菌のなかにある分子の集まり方を変化させるという仕組みが特徴です。これまでにない新しい仕組みを持っています。
何が発表された?
薬剤耐性菌が世界的な問題になっています。従来とは異なる仕組みで働く新しい抗菌薬が求められています。こうした状況のなかで研究グループが成果をまとめました。筑波大学高等研究院(TIAR)国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の戸田浩史特任助教・主任研究員、北海道大学遺伝子病制御研究所の野田展生教授らが研究を行いました。ショウジョウバエ由来の睡眠誘因因子である「Nemuri(ネムリ)」というたんぱく質から生じる複数の短いペプチドを特定しました。これらが薬剤耐性菌を含む幅広い微生物の増殖を抑えることを明らかにしました。本研究の成果は、2026年10月29日付で科学誌「Nature Communications」に掲載されています。本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業「さきがけ」および「CREST」の支援を受けて行われました。
何が分かった?
どのような実験で効果が確かめられたのか
研究グループはショウジョウバエの睡眠誘因因子であるNemuriから生じる複数の短いペプチド(Nemuriペプチド)を同定しました。これらを用いて微生物に対する作用を調べました。その結果、幅広い微生物の増殖を抑えることが判明しました。特に大腸菌や黄色ブドウ球菌に対しては、同程度の濃度で増殖の阻止だけでなく殺菌性も示すことが確認されています。また、昆虫や哺乳類の培養細胞に対する毒性が低いことも分かっています。
細菌の内部で何が起きているのか
Nemuriペプチドの作用の仕組みも詳しく解析されました。これらのペプチドは、細菌の膜に顕著な損傷を与えずに内部へ入り込む特徴を持っています。内部に入ったペプチドは、RNA(リボ核酸)とリボソームが集まる領域に蓄積することが分かりました。さらに、RNAとリボソームの表面に多点的に結合します。リボソームが集まる領域の配置を変化させます。その結果、リボソームの動きが低下します。細菌内でのたんぱく質合成が抑えられるという一連のプロセスが明らかになりました。
従来の抗菌薬と何が違うのか
これまでの多くの抗菌薬は効果を発揮してきました。標的となる生体分子の特定の結合部位に結合することで効果を出していました。これに対してNemuriペプチドは異なります。リボソームの特定の結合部位ではなく、リボソームの物理的な集合状態と動的活動そのものを標的としています。このように「分子の集まり方」を狙う抗菌作用様式はこれまでにはありませんでした。新しい医薬品設計の可能性を示すものとなっています。
数字で見ると?
本研究に関する主な情報を以下の早見表に整理します。
| 項目 |
内容 |
出典 |
| 発表日 |
2026年10月29日(現地時間) |
JSTプレスリリース |
| 掲載科学誌 |
Nature Communications |
JSTプレスリリース |
| 対象となった因子 |
睡眠誘因因子Nemuri由来のペプチド |
JSTプレスリリース |
| 支援事業 |
JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ / CREST |
JSTプレスリリース |
まだ分からないことは?この先は?
本成果はあくまで基礎研究の段階にとどまっています。今後はさまざまな検証が進められます。具体的には以下の項目を慎重に検証していく予定です。
- 細菌に感染した動物モデルを用いた有効性の検証
- 安全性、安定性、薬物動態、免疫原性
- 耐性化のリスク
実用化に向けたハードルはまだ多く残されています。今後の研究の進展が待たれます。
自分に関係ある?
本研究は基礎科学の領域における発見です。現時点では読者が直接購入できる製品や利用できる医療サービスがあるわけではありません。しかし、既存の抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌の感染症は世界的な健康上の脅威となっています。将来的に新しいタイプの抗菌薬が開発されると状況が変わります。医療の現場や私たちの健康を守るうえで大きな恩恵をもたらす可能性があります。医療従事者や製薬業界にとっても、今後の動向が注目される重要な基礎知見です。
見られる?参加できる?
本件は一般向けのサービスやイベントではありません。そのため、読者が直接申し込んだり参加したりする窓口はありません。研究の詳細な内容や論文の概要については確認することができます。科学技術振興機構(JST)の公式サイトやプレスリリースで見られます。また、掲載された科学誌「Nature Communications」の論文ページ(DOI:10.1038/s41467-026-78960-5)でも確認することができます。
まとめ
ショウジョウバエの睡眠因子に由来するペプチドが発見されました。新しい仕組みで細菌の増殖を抑えることが基礎研究で解明されました。今後は動物モデルでの安全性や有効性の検証が進められます。読者としては今後の動きに注目しましょう。基礎研究の進展や、将来的な新薬開発に関する公式発表に引き続き注目していくことが求められます。