Agent Fabricは、企業が使うAIエージェントを一か所で管理するための基盤です。SalesforceのMuleSoftが提供しており、社内のあちこちで動くエージェントを見つけ、統制する役割を担います。
今回の追加機能は、そのエージェントの品質とコストを自動で見張るものです。Salesforceの発表によると、Agent Fabricは1日に12億件を超えるリクエストを処理しています。
なぜ評価と自動停止が必要になったのか
Salesforceは、AIエージェントの運用で起きる問題を指摘しています。問題とは、エージェントが障害を起こしたり、誤った回答を返したりすることです。誰も気づかないままコストが積み上がることもあります。
同社によると、エージェントを運用する組織のうち、実際のトラフィックで評価をしているのは半数に満たない状況です。問題が見つかっても、担当者を探し、制限の社内承認を得るまでには時間がかかります。その間もエージェントは有害な結果を出し続け、トークンコストも増え続けます。
また、96%の企業が複数のプラットフォームでエージェントを運用しているとしています。
画像:Salesforce(公式発表)Agent EvalsとAPI Evalsで品質低下を検知
Agent Evalsは、導入前のテストを自動で生成します。そのうえで、本番で稼働中のエージェント、LLM(大規模言語モデル)、MCPサーバー(AIが外部ツールに接続する窓口)を評価します。評価は、定義した品質のしきい値に照らして行います。
結果が基準を下回ると、あらかじめ決めた介入が働きます。その一つが「Agent Kill Switch」です。チームの方針で承認が必要な場合は、承認の手続きを経て実行されます。
API Evalsは、エージェントが依存するAPI(アプリから呼び出す仕組み)の変更に備える機能です。API仕様から機能テストとパフォーマンステストを自動で作り、互換性を壊す変更を本番に入れる前に見つけます。
発表が示した運用の例
小売企業が、注文サポートのエージェントのコストを下げるため、接続先のAIモデルをより安いものに替えた場面です。
- Agent Evalsが定期テストを自動で実行し、遅延した注文について不正確な案内をしていると検知します。
- 人が関与する設定のため、エージェントを隔離する承認を運用者に求めます。
- 承認後にエージェントを隔離し、その間に指示を改善します。
- 低コストのモデルで評価をやり直し、期待どおりに動くと確認してから本番に戻します。
画像:Salesforce(公式発表)予算上限とトークン削減はすでに提供中
コスト管理では、FinOps DashboardとModel Walletが使えます。AI予算の責任者は、AI支出を1つの画面で把握できます。予算超過の前にリクエストを止める上限も設定できます。
Cost Optimization Policiesは、セマンティックキャッシュ、ペイロードの圧縮、レスポンスの絞り込みで、トークン使用量を最大75%減らします。Salesforceはこの数字を「テストシナリオに基づく」と説明しています。実際の削減幅は、使い方によって変わると考えられます。
日本では、8月17日にAgent Fabricの新機能群が提供開始されています(Salesforce ニュース(日本)、11/4確認)。Model WalletとAgent Kill Switchは、その時点では2027年第3四半期中の予定とされていました。今回の米国発表では、いずれも提供中と記されています。
管理対象を社内環境や他社ゲートウェイへ広げる
Agent Fabricはすでに、主要なAIプラットフォーム上のエージェントを自動で検出しています。今回の2つの更新で、対象がさらに広がります。
Custom Agent Scannerは、自動検出の対象を広げます。対象には、社内環境やファイアウォールの内側、標準では対応しない他社プラットフォームも含まれます。
カスタムスキャナーを作れば、エージェント、モデル、MCPサーバー、APIを検出して、Agent Registryに登録できます。1つずつ手作業で登録する必要はありません。
Open Policies for Federated API Gatewaysは、Azure、Apigee、Kongのゲートウェイをまたいで、APIポリシーの検出、適用、追跡を行います。IPアドレスの許可リストやレート制限といったポリシーを、一度の操作で全体に適用できます。
同じSalesforceは、ClaudeやSlackから業務アプリを操作する基盤「AIforce」も発表しています(Salesforce、新基盤「AIforce」を発表)。エージェントが増えるほど、こうした管理基盤の必要性が高まる構図です。
機能ごとの提供時期
発表では、機能ごとに状況が異なります。
- Agent Evals、API Evals:2026年11月にベータ版、2027年1月に提供開始の予定
- Custom Agent Scanner:発表日にベータ版を開始、2027年1月に提供開始の予定
- Agent Kill Switch:発表日に提供開始。「Triggered-Agent Kill Switch」は2027年1月の予定
- Open Policies for Federated API Gateways:発表日に提供開始
- FinOps Dashboard、Model Wallet、Cost Optimization Policies:発表日に提供開始
Salesforceは、開発中で未提供の機能への言及を含むため、提供済みの機能に基づいて購入を判断するよう求めています。
ASICS Digitalのエンジニアリング ディレクターは、Agent Evalsのベータ版づくりに貢献すると述べています。「小さな問題がお客様に大きく影響してしまう前に問題に対処できるようになりました」という発言です。