若い世代の「食事キャンセル」は、食事を抜くという結果は同じでも、理由によって意味が大きく違います。インテージの定義では、食事キャンセルは「普段の1日の食事回数よりも食事回数が減ってしまうこと」です。
ニッセイ基礎研究所の廣瀬涼氏は、食事をとらない「行為」と、食べたくても食べられない「状態」を分けて考える必要があるとしています。
インテージが2026年7月に公表した「Z世代の“キャンセル”実態」では、週1回以上食事キャンセルをする人が全体の約34%でした。18〜24歳では約41%と、ほかの年代より高い割合です。
食事キャンセルの理由として多かったのは「忙しくて時間がない」「お腹がすかない」でした。インテージのインタビュー調査では、睡眠、友人との交流、アルバイト、学業、SNS、趣味などを優先した結果、食事が後回しになっている実態も確認されています。
「食事キャンセル界隈」という言葉も関心を集めています。日経MJは2026年7月27日付の記事で、この調査を「Z世代、週1『食事キャンセル』4割」と題して取り上げました。ニッセイ基礎研究所によると、「界隈」は共通の趣味や価値観を持つ人々の緩やかなまとまりを指し、SNSで「自分と同じような人がいる」と分かることが広がるきっかけになります。
日本の若者は、高校生から25〜29歳で食事の回数が減る
1日3食をとる人の割合は、高校生では約70%です。25〜29歳では56.1%まで下がります。
ニッセイ基礎研究所は、その背景に進学や就職、一人暮らしの開始などのライフステージの変化を挙げています。家庭にいた高校生までは食事の機会が確保されやすい一方、生活時間を自分で管理するようになると、食事の回数や時間も本人の判断に任されるようになるためです。
推し活の費用を食費で埋める人もいます。オリコンが2025年9月に推し活をする有職者3,186人を対象に行った調査では、48.7%が推し活のために何らかの節約をしていました。節約の対象は次のとおりです。
- 食費:58.2%
- 日用品・雑貨:44.3%
- ファッション:42.5%
- 交際費:34.5%
食費が最も多く、推し活の費用を確保するための節約先になっている形です。
ほかの調査でも、同じ傾向が見られます。auじぶん銀行の2023年の調査では、推し活費用の工夫として「食費の節約」を挙げた人が、「特にない」を除く回答者の57.1%でした。エイチームの2023年の調査では、27.1%が食費を節約していると答えています。
日本テトラパックの「リセッ豆乳プロジェクト」が2026年3月に全国の20代女性1,000人を対象に行った調査では、次の結果でした。
- 普段の食費を節約して、ストレスへの対処にお金を使っている:66.4%
- そのお金の支出先で最も多かったのは「推し活」:34.3%
- 週1日以上、普段の食事を抜いている:42.2%(ストレスが高い層では54.4%)
ニッセイ基礎研究所は、この結果が推し活のために食事を抜いている人の割合を直接示したものではないと注意しています。ただ、精神的な満足のためにお金を振り向けつつ、食費を抑える若者がいることは読み取れます。
推し活をしている人全員が、食費を削っているわけではありません。エイチームの調査では、39.4%が推し活のために特に他の支出を節約していないと答えています。同じ推し活でも、余剰のお金で賄う人と、食費などを抑えて捻出する人に分かれています。
食べないことと、食べられないことは別の話
ニッセイ基礎研究所が問題にしているのは、「食べない」と「食べられない」が一緒に語られていることです。食べられるのに別の目的を優先して食べない場合は、食事に使うお金や時間を、ほかの消費に回す選択です。
ダイエットや、睡眠・趣味に時間を充てるために食事を抜く人がいます。推し活のためにお金を確保するため、食費を削る人もいます。食費を減らす方法として食事の回数や量を選ぶ場合、食事と他の消費はトレードオフ(一方を取ると他方を諦める関係)になります。
大事なのは、食費を削っても、食事に振り向け直す選択肢が残っているかどうかです。推し活への支出を控えて食費に回せるなら、食事を控えているのは本人が選んだ結果だと整理できます。
一方で、食べたいのに経済的な理由で食料を買えない人もいます。日本大学の末冨芳氏らが2025年に15〜39歳を対象に行ったオンライン調査では、有効回答4,047人のうち11.2%が、過去1年間に経済的な理由で食料が買えなかったと答えました。ただし、この結果だけで支出の配分や困窮の原因までは判別できないと、ニッセイ基礎研究所は書いています。
認定NPO法人D×Pが2025年2月に公表した調査は、食料支援を受けた給付型奨学生が対象です。主な数字は次のとおりです。
- 対象:18〜25歳の給付型奨学生124人
- 週の半分以上、朝食を食べていない:47.6%
- 物価上昇で家計が苦しくなったと答えた:92.0%
若者全体の実態を示すものではない点には注意が必要です。
ニッセイ基礎研究所は、「キャンセル」は行為を、貧困は生活を制約する状態を表す言葉だと整理しています。両者は重なることもありますが、同じ意味ではありません。食事を抜いたという結果だけで、すべてを貧困と決めつけることも、すべてを好みや自己責任と片づけることもできないとしています。
廣瀬氏は、自分にとって価値の高い消費に資源を集中させるため、ほかの生活費を切り詰めて生活水準を部分的に下げる行動を「選択的貧困」と呼んでいます。2026年6月28日放送のTBSラジオ『文化系トークラジオ Life』でもこの言葉を使いました。経済的な困窮による状態とは区別して使っているとのことです。
所得が増えても、消費の悩みがなくなるとは限りません。ライブに1回参加できれば満足していた人が複数公演に行きたくなるように、消費の経験が増えると欲求も広がると、ニッセイ基礎研究所は指摘しています。
