要約すると、半導体工場の「計算待ち」「試行錯誤」「手作業の段取り」をAIで縮めた事例集です。新製品の発表ではなく、NVIDIAのソフトを使う各社の取り組みをまとめた内容です。
半導体工場(ファブ)は、シリコンの板(ウエハー)に回路を作り込む工場です。今回の話は、そこで工程を開発する技術者や、装置・試験の担当者に向けたものです。
NVIDIAの公式ブログは、背景として3つの変化を挙げています。先端チップの需要が増えていること。作り方が複雑になっていること。許される誤差が小さくなっていることです。
工程を変えたらどうなるか。新しい工程で材料がどう反応するか。不良の原因はどこか。こうした分析には数日かかることがあります。製造ラインでの実験は遅く、費用もかかります。歩留まり(良品の割合)の判断を誤ると、影響は大きくなります。
NVIDIAの関連ページは、回路の微細化や3次元の積み重ね、チップレット(小さなチップを組み合わせる方式)によって、計算の負荷がCPU中心の道具では追いつかなくなっていると説明しています(NVIDIA公式ブログの関連ページ、11/4確認)。
NVIDIAが示す手段は4つです。GPUによる高速計算、物理を学んだAI、AIエージェント(自分で手順を進めるAI)、デジタルツイン(工場を仮想空間に再現したもの)です。これらで工程の最適化や不良の早期発見を支える工場を、同社は「AI定義型ファブ(AI-defined fab)」と呼んでいます。判断するのは技術者で、AIは答えを待つ時間を減らす役目だという位置づけです。
COMSOLとApplied Materialsは最大10倍、Siemensは最大17倍
高速化の利点は、1回の計算が速くなることだけではありません。NVIDIAは、実機で試す前に比べられる案の数が増える点を強調しています。
半導体の工程では、熱の伝わり方、電気の流れ、機械的な力が互いに影響します。これらをまとめて解くのがマルチフィジックス(複数の物理現象の連成)シミュレーションです。
各社が挙げた数字は次のとおりです。
- COMSOL:NVIDIAの計算ライブラリ「cuDSS」で、半導体製造向けのシミュレーションを最大10倍高速化
- Applied Materials「Ginestra」:cuDSSの組み込みで、CPUだけの方式に比べ最大10倍高速
- Applied Materials「ACE+」:「PhysicsNeMo」を使い、表面形状(トポグラフィー)の計算が最大35倍高速
- Siemens「Calibre」:「cuLitho」の組み込みを進めており、主要な計算で最大17倍の高速化
Siemensの例は、速さ以上の意味があります。計算リソグラフィ(回路の模様をシリコンに焼き付ける方法を決める計算)は、量産規模ではCPUで終えられないほど重いとNVIDIAは説明しています。高速化によって、ウエハーに焼き付ける前に検証できる範囲が広がるという趣旨です。
プラズマの予測は数日から数ミリ秒に
計算を速くするだけでなく、物理を学んだAIで結果を予測し、毎回の本計算を省く方法もあります。効果が大きいのは、GPUを使っても重い計算です。
例として挙がったのが、エッチング(回路を削る工程)で使うプラズマです。プラズマは電気を帯びたガスで、電気・化学・熱の作用が絡み合います。そのため、繰り返し計算するとコストがかさみます。
Lam Researchは、PhysicsNeMoを使ってプラズマの振る舞いを数ミリ秒で予測できると実証しました。通常の計算では数日かかります。条件を変えるたびに本計算をやり直さずに、候補を探れるようになります。
試験工程の作業は数時間から数分に エージェントの使い方
技術者は分析をもとに、設計の修正や試験不良の調査、製造工程の調整を決めます。AIエージェントは、その判断と判断の間の段取りを受け持ちます。
Advantestは、試験の現場でどのAIモデルを使うかを選ぶ作業に「NeMo Switchyard」のエージェントを使っています。手作業で順番に進めると数時間かかる作業で、対応時間は数分に縮んだといいます。
Applied Materialsは「Omniverse」のライブラリで、工場全体のデジタルツインを作っています。材料の搬送をシミュレーションし、滞る箇所を見つけ、配置や運用方針を比べます。レイアウト、処理量、コスト、工程管理の最適化にも使っています。個別の工程だけでなく、工場の動き全体を仮想空間で試せる点が特徴です。
NVIDIAは今後の方向として、生産データでモデルを鍛え、モデルで変更を評価し、その結果を技術者に返す循環を描いています。
編集部の見方では、今回の数字はいずれも特定の計算での「最大」値です。比較の条件が示されたのはGinestraの「CPUだけの方式」など一部にとどまります。自社に当てはめるときは、どの計算が対象かを確かめる必要があります。