平安は、利用者が「どのアプリを開けばよいのか」を判断して手続きを進める形から、AIエージェントを入口にする形へ移ろうとしています。AIエージェントとは、利用者の意図を理解して、複数のサービスをまたいで必要な手続きまで進める仕組みのことです。
アプリの使い分けから、AIへの一つの入口へ
平安は10を超えるアプリを運営し、登録ユーザーは7億人を超えています。
自動車、金融、銀行、医療・健康など分野ごとにアプリがあるため、利用者はまず目的のアプリを探す必要がありました。デジタル化で手続きは便利になりましたが、サービスが増えるほど、アプリを使い分ける手間も増えていたのです。
その解決策として2025年10月に導入されたのが「クイックサービス」です。利用者は「医療保険に加入したい」などと入力するだけで、AIエージェントが希望と状況を読み取り、商品や手続きを組み合わせて案内します。
対象は保険にとどまりません。ローンの申し込み、資産運用、カード手続き、診察や健康診断の予約、健康相談、自動車の故障時の救援までを含みます。
導入後、2026年上期には300以上のデジタルサービスが組み込まれました。延べ4,700万人が利用したとされています。平安は、この一つの入口から複数のサービスを横断して使えるようにすることを目指しています。
海外の緊急時、使い方は従来の海外旅行保険と違う
もう一つの柱が「グローバル緊急救援サービス」です。国内の自宅や屋外、海外旅行中の事故や急病に対し、平安が24時間体制で救援します。たとえば海外旅行中にケガをした場合、平安のアプリからSOSを送ると、サービス指令センターにつながります。
そこから、現地の医療機関や提携機関への連絡、医療搬送、治療、帰国、保険金の支払いまでを一体で手配する仕組みです。平安は233の国・地域に救援ネットワークを持ち、海外の1,300以上の医療機関・関連事業者と連携しています。
従来の海外旅行保険では、本人が現地で医療機関を探して治療を受け、帰国後に保険金を請求するのが基本です。このサービスでは、緊急事態が起きた時点から保険会社が支援につなぎます。
ニッセイ基礎研究所は、これを保険会社の役割の拡大と位置づけています。事故の後に保険金を払う提供者から、困ったときに問題の解決を支える提供者へ広がるものだとしています。
保険事業では、収益性の改善もみられます。ニッセイ基礎研究所によると、2025年の生命保険・健康保険事業の新契約価値(NBV。新しい契約が将来生む利益を今の価値に換算した指標)は次のとおりです。
- 新契約価値(NBV): 前年比29.3%増の369億元
- 初年度保険料の伸び: 2.5%にとどまる
保険料の伸びを大きく上回ってNBVが増えたことは、収益性の高い契約を取る方向へ軸が移ったことを示しています。
特に伸びが大きいのは銀行窓販です。銀行の店舗などを通じて保険を売る仕組みで、NBVは前年比138%増の94.1億元でした。有配当保険など資産形成型の商品の拡大と、販売コストの適正化が寄与したとみられています。
代理人の生産性も上がりました。代理人1人当たりのNBVは17.2%増えました。代理人の数を増やすのではなく、デジタル技術やAIを使って一人ひとりの成果を高めたとみられます。
顧客との関係にも変化が出ています。平安人寿の継続率は次のとおりです。
- 13ヶ月継続率: 97.4%(前年比1.0ポイント増)
- 25ヶ月継続率: 94.9%(前年比5.2ポイント増)
医療・介護サービスの利用者は、一般の顧客より追加で保険に加入する割合が高いとされています。
この流れは、2014年に平安が掲げた「インターネット+総合金融」の10年計画につながります。当初はオンライン販売や保険金請求の迅速化など、業務のデジタル化が中心でした。いまはAIやAIエージェントを使い、顧客へのサービス提供そのものを変える段階に入りつつあると、ニッセイ基礎研究所は分析しています。
