概要
要約すると、欧州の住宅運営会社HeimstadenがOpenAIのAIを使い、賃貸物件の管理業務を組み替えています。
空き部屋を貸し出すまでの作業を、AIが工程ごとに手伝っています。家賃の目安づくり、写真の加工、紹介文、広告の点検が対象です。
プログラミング経験のない社員が、AIの助けで大規模なデータ分析をやり遂げた例もあります。判断と承認は人が担い、その周りの作業をAIが引き受ける形です。
新製品ではなく既存AIの導入事例の紹介
OpenAIは2026年11月3日、公式ブログでHeimstadenの導入事例を公開しました。新製品の発表ではなく、既存のAI製品を企業がどう使っているかの紹介です。
Heimstadenの経営陣は2025年6月、AIへの投資を加速すると決めました。複数の基盤を比べたうえでOpenAIを選んでいます。
目的は2つあります。社員の力を引き上げることと、事業の中心にある業務手順を見直すことです。
事例に出てくるOpenAIの製品と社内の仕組みは次のとおりです。
- ChatGPT Enterprise(法人向けのChatGPT):2025年9月に社内で提供開始
- Codex(プログラムづくりを手伝うAI):環境リスク評価に使用
- ChatGPT Sites:家賃の目安を出すツールづくりに使用
- 調達業務の基盤「Procurement Intelligence Platform」:現在、順次提供中
- 管理システム「Amplio Estate」:共同開発中
共同CEOのHelge Krogsbøl氏は、AIを「変革を加速する最大の機会の一つ」と位置づけています。
空き部屋の募集作業を4工程でAIが支える
空き部屋の募集を4つの工程でAIが支援
部屋が空くと、これまでは家賃の査定、撮影の手配、広告づくりを順に進めていました。どの工程にも時間と専門知識が要ります。
今はAIが次の4つを支えています。
- 家賃設定:ChatGPT Sitesで作ったツールが目安と提案を出す
- 広告:画像の加工と部屋の紹介文をAIが作る
- 掲載の点検:エージェント(自分で手順を進めるAI)が、公開中の広告を社内の品質基準と照らし合わせる
- 反応の分析:AIが市場の反応をまとめ、担当チームの修正を助ける
OpenAIのブログは、この仕組みで価格が「より動的になる」と説明しています。最終判断と承認は、引き続き社員が担います。
物件の演出画像は1枚約50ユーロから0.10ユーロ未満に
空き部屋に家具を置いたように見せる加工写真を、バーチャルステージングと呼びます。オランダでは、この画像の制作費が約50ユーロから0.10ユーロ未満に下がりました。
Heimstadenは、オランダだけで年13万ユーロの節約余地があると見積もっています。
非エンジニアがCodexで2万112件を評価
同社は保有物件全体の環境リスクを把握する必要がありました。必要な情報は、公開資料やデータの形式ごとに散らばっていました。
環境サステナビリティ分析担当のJulia Erlandsen氏は、ソフト開発の経験がありません。同氏はCodexを使い、データの収集、整理、形式の統一、品質の確認を進めました。同じ処理を繰り返し回せる仕組みも作っています。
評価の方法と検証は、同氏が自分で管理しました。結果は次のとおりです。
- 評価した物件:2万112件
- 生成した有用なデータ:600万行超
- 必要な体制の見込み:5人で1年から、2人で2カ月へ
外部のコンサルタントに頼む必要もなくなりました。この分析は、気候リスク評価や報告、投資判断に繰り返し使える仕組みになりつつあります。
現場の管理人もChatGPTで改修計画
AIの利用は、建物の管理人にも広がっています。当初は懐疑的だった人も含まれます。
ノルウェーでは、管理人が手入れの行き届いていない部屋をChatGPTで評価しました。気づいた点を、優先順位つきの改修計画に整えています。
次の段階は「答えるAI」から「実行するAI」へ
調達業務の基盤「Procurement Intelligence Platform」は、現在順次提供中です。業務の自動化とOpenAIのモデルをAPI(アプリから呼び出す仕組み)で組み合わせています。
Outlook、SharePoint、Teamsにまたがって動き、契約書の分析、交渉の準備、契約の管理を支えます。商取引の判断と承認は社員が担います。
さらに、管理システム「Amplio Estate」を共同開発しています。MCPという仕組みで、ChatGPTなどのAIが物件情報を取り出し、基幹システムで処理まで進められるようにする構想です。
(編集部注)MCPは、AIと外部の業務システムをつなぐための共通の接続方式です。
数字は節約の見積もりと利用実績が中心
画像の制作費も、分析に要る体制も大きく縮みました。
| 比べること |
前 |
今回 |
変化 |
| 演出画像1枚の制作費(オランダ) |
約50ユーロ |
0.10ユーロ未満 |
99%超減 |
| 環境リスク評価に要る体制(見込み) |
5人で1年 |
2人で2カ月 |
人数・期間とも縮小 |
比べる相手のない数字は次のとおりです。
- オランダでの年間の節約余地:13万ユーロ(同社の見積もり)
- 評価した物件:2万112件
- 生成したデータ:600万行超
- ChatGPT Enterpriseの利用率:提供開始から2〜3カ月で社員の半数
編集部としてはここが気になる
13万ユーロは実績ではなく「節約余地」の見積もりです。5人で1年という比較も、事前の見込みとの比較です。
画像1枚の費用に、社員が確認・承認する手間が含まれているかは示されていません。99%超という数字だけで、業務全体のコストも同じ割合で減ったとは考えないほうがよいでしょう。
一方、非エンジニアが方法論を自分で持ち続けられた点は、数字以上に意味があります。外注すると手法が社内に残らないことが多いからです。
日本ではChatGPTとAPIが利用できる
ChatGPTとOpenAIのAPIは日本で使えます(当サイトの確認:11/3)。
- ChatGPTの個人向けプランとAPIは、日本語の料金ページとヘルプが公開されています(当サイトの確認:11/3)
- 料金ページの表示はドル建てで、円での月額は案内されていません(当サイトの確認:11/3)
- 今回の事例の中心はChatGPT Enterpriseで、法人契約が前提です
- Heimstadenが共同開発中の「Amplio Estate」の日本での提供は、まだ発表されていません
- 同社は承認済みのツールだけを、データ保護のルールの範囲で使っています。社内導入でも、扱うデータの範囲を先に決めておく必要があります