何が発表されたのか
OpenAIが自社のグローバルIT部門において「ChatGPT」(主に企業向けのChatGPT EnterpriseやChatGPT Work環境)を導入し、社内ITの運用プロセスを根本的に再構築した実例と、その具体的な成果が公開されました。
これは単なる研究段階の技術提示やコンセプトモデルではなく、OpenAIの社内環境で実際に稼働し、日常業務に組み込まれている実用化済みのシステムです。具体的には、グローバルIT部門を率いるKunal Malik氏、ITプロダクトマネジメントを統括するJaclyn Wolf氏、SaaSおよびソフトウェアガバナンス責任者のJannie Affeld氏、ITサポートマネージャーのFrancis Real氏らが登壇し、それぞれの担当領域におけるChatGPTの活用方法と劇的な効率化データを明かしました。
生成AIを個人の生産性向上に留めず、チーム、そして企業全体のオペレーティングモデルの変革へと昇華させるための実践的なフレームワークが提示されています。
発表された機能・アップデートの全容
3つのレイヤーで捉えるIT変革フレームワーク
グローバルIT責任者のKunal Malik氏は、AIによるIT運用の再構築を「個人(Individual)」「チーム(Team)」「会社(Company)」の3つのレイヤーで捉えるアプローチを提示しました。
第一のレイヤーである「個人」では、エージェント機能を備えたツール(Agentic Tooling)を支給することで、個々の従業員のスループットを5倍から10倍(5x to 10x)に高めることができます。第二の「チーム」レイヤーでは、エンドツーエンドのワークフロー全体をAIで最適化し、第三の「会社」レイヤーでは、組織全体のオペレーティングモデルを刷新します。
Malik氏は、この変革における最大のシフトは「すべての従業員がビルダー(開発者)になること(Everybody is becoming a builder)」であると指摘します。課題に最も近い現場の人間こそが、AIを用いて最適な解決策を自ら作り出すことができるという思想が、OpenAIのIT戦略の根底にあります。
チケットの45%を自律処理する「IT Agent」
ITプロダクトマネジメントリードのJaclyn Wolf氏は、社内ヘルプデスク業務を一変させた「IT Agent」の仕組みを解説しました。
従来のITサポートでは、ユーザーが物理的なヘルプデスクに足を運ぶか、ITサポートチケットを起票して人間の担当者が対応するのを数時間から数日待つ必要がありました。OpenAIが導入したIT Agentは、Slackなどの社内コミュニケーションツールから直接利用でき、ユーザーがITに関する問題を投稿すると即座に稼働します。
IT Agentは、ユーザーが自分で解決できる手順を提示して自己解決を促すか、解決できない場合は文脈(コンテキスト)情報を維持したまま人間のITスタッフのキューに自動でエスカレーションします。さらに、アカウントの権限付与や特定の設定変更など、定型的なタスクであればIT Agent自身がその場で処理を完了します。この自律的なワークフローにより、現在では社内のITチケット総量の約45%がIT Agentによってカバーされています。
バックログを2,500件から1,000件未満に削減したITSM連携
IT Agentの導入とITサービス管理(ITSM)ダッシュボードの刷新は、ITサポートチームの負担を劇的に軽減しました。
動画内のデモ画面では、サンキーダイアグラム(Sankey Diagram)を用いたITSMダッシュボードが示され、流入したチケットがどのように分類・処理されているかがリアルタイムで可視化されています。このAI駆動のITSM運用により、未処理のまま滞留していたITサポートのバックログは、従来の2,500件から1,000件未満(under 1,000)へと大幅に削減されました。
これにより、人間のサポートスタッフは、セキュリティ要件の高いタスクや、人間の判断が不可欠な複雑な課題など、より付加価値の高いクリエイティブな業務に集中できるようになりました。サポートチーム自身が、自らの業務を効率化するためのマイクロサイトや専用エージェントを構築する動きも活発化しています。
数千の社内SaaSを自動分類・評価するガバナンスツール
SaaSおよびソフトウェアガバナンスを統括するJannie Affeld氏は、社内で利用される膨大なソフトウェアの管理にChatGPTを活用する手法を紹介しました。
急成長する企業においては、社内で使われるソフトウェアの種類が数百から数千に及び、そのすべてを人手で把握・評価することは困難です。OpenAIでは、ChatGPTを用いてこれらのソフトウェアを約30のカテゴリーに自動でグルーピングしました。
さらに、それぞれのソフトウェアについて、継続利用すべきか(Retain)、見直すべきか(Review)、あるいは利用を保留・廃止すべきか(Defer)という「ソフトウェア・ガバナンス・ライフサイクル」の初期評価をChatGPTに実行させています。
画面上のデモでは、ネットワーク状に可視化されたソフトウェアの依存関係マップ(Soil Enablement and Governance)が示され、リスクとガバナンスの状況が一目で把握できるようになっています。この仕組みにより、従来は専門のコンサルタントや担当者が数ヶ月かけて行っていた高度な分析が、極めて短時間で完了するようになりました。
新規調達を70%抑制するスマートマッチング
SaaSガバナンスにおけるもう一つの大きな成果は、新規ソフトウェア調達プロセスの最適化です。
従業員から新しいソフトウェアの購入申請(Sourcing Intake)があった際、ChatGPTがその機能や用途を分析し、社内で既に契約済みの既存ソフトウェアの中に同等の機能を持つものがないかを自動で照合(Match to existing software)します。
このマッチングプロセスにより、新規にソフトウェアを購入することなく、既存のライブラリやツールを活用して要求を満たせる割合が約70%に達しました。無駄なライセンス費用の発生を防ぐだけでなく、セキュリティ審査や導入プロセスの長期化を防ぐという観点からも、極めて強力なコスト削減およびガバナンス強化の手段となっています。
GitHubで「スキル」をコード管理するIT運用
ITサポートマネージャーのFrancis Real氏は、サポートチームが開発したAIの「スキル(Skills)」を組織全体で共有・管理する具体的なエンジニアリング手法を公開しました。
デモでは、GitHub上に構築された「openai/it-ops」(編集部注:画面上のリポジトリ構造に基づく)などのリポジトリが示され、ITサポートチームが作成した様々なスキルがコードとして管理されている様子が映し出されました。リポジトリ内には、以下のような具体的なスキルフォルダが並んでいます。
create-it-managed-access-policy(アクセス制御ポリシーの作成)diagnose-google-email-bounces(Googleメールのバウンス診断)fix-slack-mac-notifications(Mac版Slackの通知不具合の修正)help-password-scan(パスワードスキャンと検証)it-ticket-sop-guide(標準作業手順書のガイド)
これらのスキルは、ITサポートチームが日常のトラブルシューティングから得た知見をコード化したものであり、GitHubを通じてチーム全体に同期されます。これにより、すべてのサポートスタッフが常に最新かつ正確な「スキル」をChatGPT経由で呼び出して業務に使用できる環境が整えられています。
コマンド1つで優先度を自動判定する「Ticket Dispenser」
Francis Real氏は、具体的なカスタムスキルの一例として「Ticket Dispenser(チケットディスペンサー)」の実演を行いました。
サポートスタッフがSlackなどのインターフェース上で $ticket というコマンドを入力すると、このスキルが起動します。Ticket Dispenserは、現在滞留しているチケットの中から、緊急度(Urgency)、セキュリティリスク、SLA(サービス品質合意)の遵守状況などを総合的に判断し、最も優先度の高い5つのチケットを自動的に抽出してスタッフに割り当てます。
スタッフが手動でチケットの優先順位を精査する時間をゼロにし、最も迅速に対応すべき深刻な課題から迷わず着手できる仕組みを実現しています。




