概要
カスタマーサポートソフトウェア大手のZendesk(ゼンデスク)が、全社的な生成AI活用の成果を公開しました。
同社はOpenAIの法人向けサービス「ChatGPT Enterprise」を全社員に導入しています。IT部門に頼るだけでなく、営業やマーケティング、財務、運用などの現場社員が自ら業務に必要なAIアプリケーションを作り上げました。その数は社内で約600個にのぼります。
特に営業部門で活用されているAIエージェントは、自社の顧客データ(ライセンスの利用状況や問い合わせチケットの数など)をプロアクティブに分析します。契約を拡大してくれる可能性が高い顧客を自動で見つけ出し、営業担当者に「どのようにアプローチすれば顧客にメリットがあるか」という根拠付きの提案理由を提示します。この営業向けアプリだけで毎日約1,000人の社員が利用するほどの定着を見せています。
何が発表された?
今回の動画では、Zendeskでエンタープライズデータ&アナリティクス担当VPを務めるDaniel Humble(ダニエル・ハンブル)氏が、同社内における「ChatGPT Enterprise」の具体的な導入成果と社内開発の実態を明かしました。
新たな新製品の発表ではなく、すでに一般提供されている法人向けChatGPTを同社がどのように全社展開し、業務プロセスへ組み込んでいるかを示す実践的な導入事例となります。
動画内で確認できる主な実施内容と対象範囲は以下の通りです。
- 対象ユーザー: 全社員(営業、マーケティング、財務、オペレーション部門を含む一般的なビジネスユーザー)
- 構築されたアプリ数: 社内全体で約600個のアプリケーション
- 主要な活用例: 顧客データと連携してアップセル(契約拡大)のチャンスを自動判別する営業向けAIエージェント
- 利用実績: 営業向けAIアプリケーション単体で1日あたり約1,000人のアクティブユーザー(DAU)が利用
前と何が違う?
具体的に現場の働き方がどう変化したのか、動画内で語られた取り組みをもとに解説します。
専門エンジニア不要で現場がアプリを自作できるようになった
「エンジニアに頼まないとツールが作れない」という従来の開発ハードルがなくなりました。
かつては現場の業務改善ツールを作成する際、IT部門やデータエンジニアに要件を伝えて開発を依頼する必要がありました。しかしZendeskでは、ChatGPT Enterpriseの基盤を活用することで、営業や財務などのビジネスユーザーが直接AIとやり取りし、自前でアプリを構築しています。
結果として、社内全体で約600個もの多様な用途に合わせたアプリケーションが現場主導で誕生しました。各自が自分の業務に必要な機能を素早く形にできる環境が整っています。
営業が分析する前にAIが顧客の拡大チャンスを教えてくれる
「データを見に行って分析する」受動的なスタイルから、「AIが提案機会を教えてくれる」能動的なスタイルへと変わりました。
従来の営業活動では、担当者が自らダッシュボードを開き、顧客の利用状況を手動で確認して契約拡大の余地を探すのが一般的でした。今回構築された営業向けAIエージェントは、自社データの中へプロアクティブ(先回り)に潜り込みます。
購入しているライセンス上限近くまで使っている顧客や、1エージェントあたりの問い合わせチケット数が急増している顧客をAIが自発的に判別します。営業担当者が気付く前に「この顧客は契約を広げてくれる可能性が高い」と通知を出してくれます。
提案理由と顧客のメリットまでAIが同時に言語化してくれる
単に「この顧客が狙い目です」とリストアップするだけでなく、なぜ狙い目なのかというロジックまでAIが作成します。
AIエージェントはデータ上の異常値や利用頻度の高さを検知すると、営業担当者に向けて強固な価値提案(バリューケース)を提示します。「顧客の問い合わせ数が増加しており、現在の契約数では対応負荷が高いため、ライセンスを追加することで運用の効率化が見込める」といった、顧客視点でのメリットを具体的に言語化します。
営業担当者はゼロから提案書を考える必要がなくなり、AIが出したロジックをもとにすぐに顧客へ価値あるアプローチを行えるようになります。
社内定着率が高く毎日1,000人の営業担当者が活用している
「導入したものの使われない」という社内AIツールの形骸化を防ぎ、日常業務に深く根付いています。
Zendeskでは、構築された営業向けAIアプリ単体で、毎日約1,000人のアクティブユーザー(DAU)がアクセスしています。現場の営業担当者にとって、質問すればすぐにデータに基づいた答えやアプローチ案が返ってくる環境が整ったことで、日々の業務に不可欠なツールとして定着しています。
数字で見るとどう変わった?
動画内で示された数値データを一覧で整理します。
Zendesk社内におけるChatGPT Enterprise活用数値
- 社内で構築されたアプリ総数: 約600個
- 営業向けAIアプリのデイリーアクティブユーザー(DAU): 約1,000人
- 導入対象: 全社員(営業・マーケティング・財務・オペレーション等)
以前の数値との直接的なビフォーアフター比較(パーセンテージ等)は動画内で明記されていませんが、現場手動で約600ものアプリが作られ、単一アプリで毎日1,000人が使い続けているという実績自体が、全社展開の成功を証明しています。
ライバルと比べてどう?
自社データとの親和性と現場主導の展開スピードでリード
企業が社内データにAIを活用する際、主な選択肢としてOpenAIの「ChatGPT Enterprise」やMicrosoftの「Microsoft 365 Copilot」、Anthropicの「Claude Enterprise」などが挙げられます。
| 比べること |
ChatGPT Enterprise(Zendesk事例) |
他社の一般的な企業向けAIツール |
有利なのは |
| 現場社員によるアプリ作成 |
専門知識なしで約600個のツールを自作 |
システム部門による組み込みが中心 |
ChatGPT Enterprise |
| 営業データからの自動提案 |
利用率やチケット数からバリューケースまで自動言語化 |
ダッシュボード集計や要約にとどまることが多い |
ChatGPT Enterprise |
(※他社ツールの特徴は一般的な傾向に基づく編集部注)
他社ツールでもチャット形式でのデータ検索や要約は可能ですが、Zendeskの事例で際立っているのは「現場のビジネス職が自前でエージェントを作り、プロアクティブに提案理由(バリューケース)まで構築させている」点です。IT部門による重厚なシステム開発を待たずに、現場のスピード感で試行錯誤できる点が強みと言えます。
料金は?
動画内では具体的な導入価格についての言及はありませんでした。
一般的に「ChatGPT Enterprise」はOpenAIとの個別法人契約(エンタープライズプラン)となるため、利用規模やシート数に応じた個別見積もりとなります。また、社内システムやデータベースとAIを連携させるためのAPI利用料金や基盤構築費用が別途発生します。
日本で使える?
日本からでも今すぐ利用可能です。
Zendeskが活用している「ChatGPT Enterprise」は、日本国内の企業向けにもすでに提供されています。日本語でのやり取りにも完全対応しており、自社データを安全にAIへ学習させない形で運用することが可能です。
日本企業が同様の取り組みを行うための手順は以下の通りです。
- OpenAIの公式Webサイトから「ChatGPT Enterprise」の問い合わせを行い、法人契約を締結する
- 社内のセキュリティポリシーやデータ利用ガイドラインを策定する
- 営業データ(SalesforceやZendeskなどの顧客利用データ)とChatGPTをAPI等で連携させる
- 営業や財務などの現場部門に対してAIプロンプトの作成方法や活用研修を実施する
自分にはどう関係する?
で、自分の仕事にはどう関係してくるのでしょうか。3つの立場別に解説します。
エンジニアなら
「システム開発の依頼対応」から「現場が自作するためのデータ基盤整備」へと役割が変わります。
現場の営業やマーケティング担当者が自らAIアプリを作れる環境を整えることが求められます。安全に自社データ(利用ログやチケット情報など)へAIがアクセスできるAPI環境や権限管理の構築に集中することで、社内のDXを劇的に加速させることができます。
企画・マーケティングなら
データ分析待ちの時間がゼロになり、施策の打ち手を考えることに集中できます。
「どの顧客がどんな使い方をしているか」をデータアナリストに依頼して抽出してもらう必要がなくなります。ChatGPT Enterpriseを通じて直接データに質問を投げかけることで、顧客の解約リスクやアップセル機会を即座に把握し、次のマーケティング施策へ迅速に繋げられます。
経営者・管理者なら
「AI導入をいつ検討するか」で悩む時間を減らし、今すぐ現場に使わせる決断が必要です。
ZendeskのDaniel Humble氏が述べている通り、「待つことによって得るものよりも、失うもののほうが大きい(If you wait, you lose more than you gain)」のがAI活用の現実です。完璧なシステムを整えてから配るのではなく、ChatGPT Enterpriseのような安全な環境を全社に配り、現場から自然発生的に業務改善アプリが生まれる仕組みを作ることが重要です。
まとめ
Zendeskの事例は、生成AIが単なる「文章作成ツール」を超えて、自社データを活用した「営業の相棒(AIエージェント)」として機能していることを実証しています。
今後、企業におけるAI活用は「IT部門が作ったシステムを使う」形から、「現場社員が自分の業務に合わせてAIアプリを自作する」形へと完全にシフトしていきます。
読者が次に取るべきアクションは以下の2つです。
- 自社の営業データや顧客の利用状況データが、AIから参照できる状態になっているか確認する
- 法人向けChatGPTなどの安全なAI基盤を現場に開放し、小さな業務改善アプリの自作を許可してみる