何が発表されたのか
OpenAIは2026年7月28日、開発者向けの新しい音声認識(文字起こし)モデルとして、「gpt-transcribe」および「gpt-live-transcribe」の2機種を発表しました。これらは、従来の音声認識モデルが抱えていたリアルタイム処理の難しさや、専門用語の誤認識といった課題を解決するために設計された次世代のモデルです。本モデルは研究段階ではなく、発表と同日に開発者向けAPIとして提供が開始されています。音声ファイルを一括処理するバッチ型と、低遅延で逐次処理するストリーミング型の2つのアプローチを提供することで、音声認識を用いたアプリケーション開発の幅を大きく広げる位置づけとなります。
発表された機能・アップデートの全容
リアルタイム音声認識モデル「gpt-live-transcribe」のストリーミング性能
動画の冒頭から14秒付近で始まるデモでは、ブラウザ上で動作する「Realtime transcription」というWebアプリケーションが公開されました。登壇者が話し始めると同時に、画面上にテキストが次々と出力されていきます。
このモデルの最大の特徴は、音声データを最後まで待つことなく、ストリーミング接続を維持したまま、発話とほぼ同時にテキストデータを返せる点にあります。動画内で登壇者は「gpt-live-transcribe keeps a live open connection and returns text as the audio arrives.」(gpt-live-transcribeはライブの開かれた接続を維持し、音声が届くたびにテキストを返します)と説明しています。
従来の音声認識システムでは、音声の区切れ目を検知してからAPIリクエストを送信するため、どうしても数秒の遅延(レイテンシ)が発生していました。しかし、デモ画面を見る限り、本モデルは一文字、あるいは一単語単位で滑らかにテキストが生成されており、遅延は極めて低いレベルに抑えられています。これにより、会話の途中で文字起こしが途切れることなく、自然なユーザー体験を提供できます。
バッチ処理に特化した高速モデル「gpt-transcribe」の処理能力
動画の1分36秒からは、もう一つの新モデルである「gpt-transcribe」のデモが行われました。こちらはリアルタイム性ではなく、すでに録音された音声ファイルを一括して処理する「バッチ処理」に特化したモデルです。
デモでは、「AI Engineer World's Fair recap.m4a」という21.2MBの音声ファイルがアップロードされます。この音声の長さは「25分00秒」です。アップロード後、画面には「Transcording the complete file」と表示され、処理の進捗バーが進んでいきます。
最終的に、処理に要した時間はわずか「41.7秒」でした。画面には「Audio 25:00 -> Transcribed in 00:41.7」と大きく表示され、完了と同時に全編のテキストが一瞬で出力されました。
取材班の見立てでは、実時間の約36倍の速度で処理が行われている計算になります。この圧倒的なスループットは、大量の会議録音やコールセンターの通話履歴、ポッドキャストの音声アーカイブなどを一括でテキスト化する用途において、極めて強力な武器になります。処理を待つストレスを最小限に抑え、次の解析や要約のステップへ迅速に移行できます。
プロンプトとカスタム語彙による専門用語・固有名詞の認識率向上
動画の32秒付近からは、専門用語や固有名詞を正確に認識させるための「プロンプト(Prompt)」および「カスタム語彙(Custom Vocabulary)」機能について解説されています。
一般的な音声認識モデルでは、医療用語やITの専門用語、ビジネスの略語、あるいは人名や社名といった固有名詞の認識率が低下しやすいという課題がありました。本モデルでは、開発者がAPIを呼び出す際に、あらかじめ「重要単語のリスト」をプロンプトとして渡すことができます。
デモにおいて登壇者は、サイバーセキュリティ分野の「phishing(フィッシング)」、ビジネス・財務分野の「ARR(年間経常収益:Annual Recurring Revenue)」、ヘルスケア分野の「A1C(ヘモグロビンA1c)」という3つの単語をカスタムボキャブラリーとして登録したと説明しています。
これらの単語は、前後の文脈や発音の類似性から、一般的な「fishing(釣り)」などと誤認識されやすい性質を持っています。しかし、デモ画面では、登壇者がこれらの専門用語を発声した際、誤認識されることなく正確なスペルでテキスト化されている様子が確認できます。業界特有の専門知識をあらかじめモデルにインプットしておくことで、実務に耐えうる高精度のテキスト化が可能になります。
雑音や環境音を排除する高度な背景ノイズ抑制機能
動画の52秒付近からは、音声認識の現場で最も頻繁に発生する「背景ノイズ」への耐性を証明するユニークなデモが披露されます。
登壇者は、デスクの脇からウクレレを取り出し、コードを弾きながら歌うように話し始めます。ウクレレの明るい音色がマイクを通じてしっかりと響いている状態です。
「And because they're better at handling background noise, a side conversation or ambient music is less likely to show up as speech.」(そして、これらは背景ノイズの処理に優れているため、横での会話や環境音楽が話し声として現れにくくなります)と登壇者は語ります。
驚くべきことに、デモ画面のテキスト表示には、ウクレレの演奏音や、それに伴う雑音による誤認識は一切含まれていません。登壇者が口にした言葉だけが、一言一句狂わずにテキスト化されています。
従来のモデルでは、BGMや周囲の話し声が混ざると、それを人間の声と誤認して無意味な文字列を出力することが多々ありました。本モデルは、主音声である話者の声と、それ以外の環境音や音楽を明確に分離して処理する能力が大幅に向上しています。騒がしいカフェや、複数人が会話する会議室、あるいは工場などの騒音環境下でも、極めて安定した文字起こしを実現します。
同一セッション内で完結する自動多言語スイッチング機能
動画の1分11秒からは、多言語対応(Multilingual)に関するデモが行われました。本モデルは標準で57言語に対応しています。
デモにおいて、登壇者は英語で話している途中で、何の前触れもなくスペイン語に切り替えます。「Y también puedo cambiar al español en la misma sesión. El modelo sigue transcribiendo en tempo real y ahora vuelvo al inglés.」(そして、同じセッション内でスペイン語に切り替えることもできます。モデルはリアルタイムで文字起こしを続け、そして今、英語に戻ります)
画面上のテキストは、スペイン語に切り替わった瞬間に自動的にそれを検知し、スペイン語のスペルと文法で正確に文字起こしを行いました。その後、再び英語に戻した際も、即座に英語の認識へと戻っています。
これは、事前の言語設定の変更や、セッションの再接続を一切必要としない「自動言語切り替え」が機能していることを示しています。グローバルな会議や、複数の言語が飛び交うコールセンター、あるいは語学学習アプリなどにおいて、このシームレスな多言語スイッチング機能は極めて有用です。




