概要
量子科学技術研究開発機構(QST)と日本酸素の研究グループが新しい技術を開発しました。肝臓の酵素であるパラオキソナーゼ(PON)の活性を生体内で直接検出する技術です。超偏極MRI技術と呼ばれる手法を使いました。
通常MRIの約23万倍という超高感度を実現しています。約20秒という短時間のスキャンも可能です。脂肪肝などの病態進行に伴うPON活性の低下を非侵襲的に捉えることに成功しました。生活習慣病の早期発見につながる新しい診断法として期待されています。
何が発表された?
量子科学技術研究開発機構(QST)量子生命科学研究所量子生命スピングループの高草木洋一グループリーダーらが研究を発表しました。日本酸素株式会社イノベーションユニットSI事業部SIイノベーションセンターSI開発課の池田明夏里課長や金子大智らによる研究グループです。2026年10月30日に研究成果が発表されました。
本研究では新しい超偏極MRI分子プローブが開発されました。脂質代謝異常に関わる重要な酵素であるパラオキソナーゼ(PON)1の働きを調べるためです。肝臓内での働きを体外から非侵襲的に調べることを目的としました。
研究成果は英国王立化学会が刊行する専門誌「Sensors & Diagnostics」に掲載されます。10月13日に早期公開版がオンライン公開されました。正式版は11月12日にオンライン掲載される予定です。
何が分かった?
専用の超偏極MRI分子プローブの創製
研究グループはPONの反応基質の一つであるメバロノラクトンに着目しました。メバロノラクトンを13C核で標識した[1-13C]メバロノラクトン(MVL)をデザインしました。これが新たな超偏極代謝分子プローブとなります。簡便に導入可能な合成ルートも確立されました。
デンマーク製の超偏極装置「SpinAligner」が使われました。これはQST量子生命科学研究所に設置された国内1号機です。[1-13C]MVLを高感度化したところ、一時的に約23万倍の高感度化信号を示しました。長い縦緩和時間(T1 = 52.2±0.2秒)も示しています。
生体内PON活性のリアルタイムイメージング
開発した分子プローブを超偏極装置にて高感度化しました。麻酔下でMRI装置内へ実験用マウスを保定しました。マウスの尾静脈より速やかに分子プローブが投与されました。生体内からの超偏極13C信号がリアルタイムに計測されました。
約20秒の画像スキャンが実施されました。その結果、投与した超偏極[1-13C]MVLやその代謝物である[1-13C]MVAの13C信号がマウス胴体部分より検出されました。肝血管や他の臓器と比較されました。その結果、肝実質で高いMVA/MVL比(PON活性)が可視化されました。
脂肪肝モデルマウスにおけるPON活性低下の可視化
コリンやアミノ酸を欠損させた特殊な餌(CDAHFD)が使われました。これを給餌させて特殊な状態が誘発されました。痩せ型の脂肪肝(MASLD)や脂肪肝炎(MASH)のモデルマウスが作製されました。このマウスに超偏極[1-13C]MVLが投与されました。これで肝臓のPON活性が画像化されました。
通常の餌を給餌させた健常マウスと比較が行われました。その結果、CDAHFD給餌群では週数が進むに連れPON活性が低下していくことが明らかになりました。
数字で見ると?
| 項目 |
数値 |
出典 |
| 通常MRIに対する感度向上倍率 |
約23万倍 |
QSTプレスリリース |
| 画像スキャンに要する時間 |
約20秒 |
QSTプレスリリース |
| [1-13C]MVLの縦緩和時間(T1) |
52.2±0.2秒 |
QSTプレスリリース |
| [1-13C]MVAの縦緩和時間(T1) |
43.4±4.5秒 |
QSTプレスリリース |
まだ分からないことは?この先は?
本研究は実験用マウスを用いたモデル動物での実証段階です。直ちに人間の臨床診断に適用されるものではありません。今後は本研究で示した分子プローブ設計戦略を発展させます。多様な酵素活性を標的とした超偏極MRI分子プローブの開発へと展開されます。新たな分子イメージング法および診断技術としての社会実装を目指すとしています。
自分に関係ある?
代謝機能異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)は生活習慣病の一つです。成人の約3人に1人が持つとされています。高度肥満だけでなく痩せ型脂肪肝も問題視されています。将来的な脂肪肝炎(MASH)や肝硬変、肝がんへの進展を防ぐことが重要です。早期発見につながる技術として、将来的に医療や健康管理の分野に大きな影響を与える可能性があります。
見られる?参加できる?
- 元記事では、一般向けの具体的な医療サービス提供時期や利用窓口についての案内はありません。
- 詳細な研究内容や今後の進展については、量子科学技術研究開発機構(QST)の公式ウェブサイトおよびプレスリリースをご確認ください。
まとめ
研究グループは世界で初めて生体内におけるパラオキソナーゼ(PON)活性を非侵襲的に直接計測・画像化しました。この超偏極MRI技術の実現は大きな成果です。今後は多様な生活習慣病の早期発見や病態評価への応用に向けた研究開発の進展に注目が集まります。量子科学技術研究開発機構(QST)などの公式発表を引き続き確認することが推奨されます。