概要
広島大学の研究グループが、肺がんのCT画像から腫瘍の生物学的な性質を読み解くAI解析基盤を開発しました。このシステムは、画像と遺伝子情報を結びつけることで、治療前の予後予測から薬の候補探索までを可能にします。肺がんの個別化治療の発展に向けた、新しい研究の枠組みです。
何が発表された?
広島大学病院放射線部の河原大輔准教授らの研究グループは、非小細胞肺がんのCT画像を用いて、腫瘍の治りにくさを予測し、最適な薬を探索するAI解析基盤を構築しました。この研究成果は、2026年10月6日付で米国医学物理会誌「Medical Physics」に掲載されています。
これまで肺がんは、同じ病名であっても患者ごとに治療経過が異なることが課題でした。その背景には、腫瘍ごとの低酸素状態や細胞増殖、炎症といった生物学的な違いがあると考えられています。今回の取り組みは、診療で日常的に撮影されるCT画像から、こうした腫瘍の内部状態を推定し、創薬の効率化へつなげることを目的とした新しい試みです。
何が分かった?
CT画像による高い予後予測性能
研究グループは、402例の治療前CT画像から腫瘍内部や周囲の形状、濃度、模様を数値化し、予後予測モデルを作成しました。独立した110例で検証した結果、予後を見分ける性能を示す指標であるC-indexは0.785を記録しました。これは、既存の臨床情報を用いるよりも高い精度で、重要な予後バイオマーカー(病気の指標となる物質や状態)を画像から抽出できることを示しています。
腫瘍の制御状態を3つに分類
画像特徴と遺伝子情報の関連を調べた結果、予後不良に関わる遺伝子群として、HIF1A、STAT3、TP53、YAP1、E2F1/E2F3といった転写因子(遺伝子の働きを調節するスイッチのようなもの)が関与していることが判明しました。これに基づき、腫瘍を以下の3つの制御状態に分類することに成功しました。
- 低酸素・代謝型(69例、62.7%)
- 細胞増殖型(31例、28.2%)
- 細胞の力学応答型(10例、9.1%)
薬剤データベースを用いた候補探索
分類した各状態に対し、世界最大の薬剤データベースである「LINCS」のデータを照合しました。構築したAIアルゴリズムを用いることで、それぞれの状態に関連する遺伝子の働きを打ち消す可能性がある薬の候補を、計算機上で探索することに成功しました。これにより、画像診断から創薬候補の検討までを一貫して行う枠組みが示されました。
数字で見ると?
研究の規模と予測精度は以下の通りです。
| 項目 |
数値 |
出典 |
| 予後予測モデル構築に使用した症例数 |
402例 |
広島大学 |
| 独立検証に使用した症例数 |
110例 |
広島大学 |
| 予後予測性能(C-index) |
0.785 |
広島大学 |
まだ分からないことは?この先は?
今回の成果はあくまで計算機上の解析基盤の構築であり、実際の臨床現場での利用にはさらなるステップが必要です。研究グループは、今後より大規模な複数施設のデータを用いて、システムの予測性能と再現性を検証するとしています。また、AIが提示した薬の候補については、細胞や動物実験、あるいは実際の臨床データを通じた検証が欠かせません(編集部注)。将来的な目標は、患者のCT画像から腫瘍の特性を推定し、最適な薬を提示するAIシステムとして、肺がんの個別化治療や新薬開発の効率化に貢献することです。
自分に関係ある?
現時点で一般の方がこのシステムを直接利用することはできません。しかし、肺がん治療に関わる患者さんやその家族、医療関係者にとっては、将来的な治療の選択肢や精度が向上する可能性を秘めた重要な研究と言えます。特に、従来の治療法で経過が思わしくなかったケースにおいて、腫瘍の生物学的背景に基づいた新しいアプローチが生まれることが期待されます。
見られる?参加できる?
本研究は学術的な発表であり、一般向けのサービスや参加プログラムはありません。詳細な研究内容や論文については、広島大学の公式サイトおよび掲載誌「Medical Physics」で確認可能です。
まとめ
今後は複数施設での検証を通じて、システムの信頼性を高める段階へ進みます。最新の研究進捗については、広島大学病院放射線部などの公式発表を注視してください。