翻訳の文章を社内資料や取引先への文書に使うと、文体がそろっていないだけで直す手間がかかります。
今回、SB Intuitionsの翻訳AI「Sarashina3.2 translate」で、訳文の文体を指定できるようになりました。指定できるのは「だ・である調」か「です・ます調」です。文体指定はβ版として提供されています。
Sarashina3.2 translateは、日英・英日翻訳に特化した大規模言語モデル(LLM、大量の文章で学習したAI)です。前のモデルに文体指定を加えた後継にあたります。
文体とは、文末の形のことです。「〜だ。」「〜である。」で終わるのが常体で、論文や報告書で使われます。「〜です。」「〜ます。」で終わるのが敬体で、顧客向けの文書や案内文に向いています。
英語には常体と敬体の区別がありません。そのため英日翻訳では、モデルが訳文の文体を自分で決めます。用途に合わない文体になったりします。長い文書を段落ごとに訳すと、リクエストのたびに文体が変わったりします。
指定なしでは、常体と敬体の割合が入力ごとに揺れる
SB Intuitionsの松野智紀さんは、指定なしの訳文を調べました。対象は、WMT24(機械翻訳の国際的な評価用データ)の英日997件のうち、見出しや体言止めの参照訳を除いた698件です。結果は次のとおりでした。
- 常体 68.1%
- 敬体 28.4%
- 混在 0.9%
- 判定不能 2.7%
1回の出力の中で文体が混ざることは、ほとんどありません。問題は、入力ごとに常体と敬体のどちらになるかが安定しないことです。長い文書を段落ごとに訳すと、段落の文体がばらつく原因になります。
判定はルールベースで、LLMは使っていません。文末は形態素解析(文章を単語に分けて品詞を調べる技術)で調べています。
日本語の翻訳で文体を指定して使う方法と、訳文の質
指定できるのは「だ・である調(常体)」と「です・ます調(敬体)」です。指定しない場合は、内容に応じてモデルが文体を選びます。
この機能はsarashina.aiのtranslate APIで試せます。APIとは、アプリから呼び出す仕組みのことです。
社内のマニュアルを英語から日本語にする担当者なら、文書ごとに文体を決められます。APIに指定を渡すだけで、文体をそろえられます。
指定すると、常体は98.1%(698件中685件)、敬体は97.1%(678件)が指定どおりの文体になりました。指定どおりにならなかったものは、訳文が体言止めになったものが多くを占めました。会話の書き起こし・小説のセリフで口調が常体のまま残ったものもありました。
ただし、敬体を指定すると訳文の質の指標がわずかに下がります。文体評価用の翻訳でBLEU(訳文を正解の訳と比べて点数化する指標)を測りました。指定なしは24.9、敬体指定は23.1でした。
LLMによる誤訳評価(MQM)でもやや悪化しています。編集部の見方では、敬体で大事な文書を出すときは、本番の前に訳文を読み比べるのが安全です。
(編集部注)BLEUは、訳文と参照訳の単語の重なりで点数を付ける指標です。言い回しの違いに弱いため、MQMなど別の指標と合わせて見るのが一般的です。
文体指定を加えても、一般的な翻訳の質は保たれているとしています。WMT24の英日・日英各997件で、前のモデルSarashina3 translateと比べました。BLEUはわずかに下がり、MQMは同等でした。
英日のペアワイズ比較(2つの訳文のどちらが良いかをAIに判定させる方法)では、次のとおりでした。
- 3.2の勝ち:38.1%
- 3.2の負け:31.1%
翻訳の指示を含む文もあつかえるようになりました。原文に「Please translate the sentence below into Japanese: ...」のような指示が含まれることがあります。その場合も、指示を実行せず全文を訳せます。
専用の400件のテストでは、従来モデルで指示文が抜けていた訳の割合は次のとおりでした。
- 英日:22.0%
- 日英:33.5%
3.2は失敗が0件でした。
翻訳に特化したAIとしては、PFNも「PLaMo 3 Translate」を公開しています(PFNの翻訳AI「PLaMo 3 Translate」の重みを公開)。

