花火大会の会場では、限られた時間と場所に大勢の人が集まります。動画の視聴やSNSの利用で、通信量が一時的に極めて多くなります。
NTTドコモの発表によると、このとき特定の周波数帯に通信が偏り、速度が落ちることがありました。一方で、ほかの周波数帯には空きがある状態です。空いている帯域を使えていないため、設備があっても通信しづらくなります。
周波数帯とは、電波の周波数の区切りのことです。携帯電話は、基地局ごとに複数の周波数帯を使い分けて通信しています。(編集部注)
今回の実証で使われたのは、「MLB(Mobility Load Balancing:モビリティ負荷分散)」という機能です。ノキア製のSONシステム「MantaRay SON」に搭載されています。SONは「Self-Organizing Network」の略で、従来は人手で行っていた作業を、ネットワークが自律的に行うためのシステムです。
MLBは、各基地局と周波数帯の通信量を継続的に把握します。混雑している周波数帯から空きのある周波数帯へ、スマートフォンなどの接続先を自動で切り替えます。基地局どうしの間と、周波数帯どうしの間の両方で、通信量の偏りを抑えます。通信量が刻々と変わる会場でも、人が一つずつ設定を変えずに済む点が特徴です。
日本の花火大会で、通信の偏りを解消した仕組み
実証は、2026年10月17日(土曜)に大阪府で開かれた「第38回なにわ淀川花火大会」の会場周辺で行われました。
会場には、Tri-Band Massive MIMO(トライバンド マッシブ マイモ)と呼ばれる無線装置を設置しました。Massive MIMOは、多数のアンテナを使い、お客さまがいる方向へ効率よく電波を届ける技術です。この装置は、次の3つの周波数帯に対応しています。
3つを合わせた帯域幅は、合計280MHzです。帯域幅が広いほど、一度に流せる通信の量を増やしやすくなります。(編集部注)
この装置に、MLB機能を適用しました。通信量が最も多くなる時間帯には、通信速度も測定しました。その結果、混雑時間帯でも下り約370Mbps、上り約31Mbpsの安定した通信速度を確認したとしています。この数字は、当該エリアで実測した値の中央値です。
発表では、過去の花火大会の一例と比べています。MLB機能がない場合は、空いている3.5GHz帯や3.7GHz帯があるのに、4.5GHz帯に接続が偏り、通信しづらくなる状況が起きたとしています。
MLB機能を使った第38回なにわ淀川花火大会では、周波数帯どうしの偏りが解消されました。どの周波数帯でも安定した速度が出ていたとしています。
発表では、設備の強化とMLB機能の両方が効いたと説明しています。Tri-Band Massive MIMOによる物理的な設備対策で受け皿を増やし、MLB機能で偏りを解消したという組み合わせです。編集部の見方では、今回の実証で大事なのは、設備を増やすだけでなく振り分けを自動で行った点です。混雑が刻々と変わる会場では、手作業での切り替えは追いつきにくいと考えられます。
同じ偏りは、通信量が刻々と変わる都市部でも起きえます。発表では、スタジアムなどの大規模施設への導入を進めるとともに、都市部への展開も検討するとしています。
2027年に目指す「自律型ネットワーク」
NTTドコモは、SONなどのネットワーク自動化技術と無線装置の高度化を組み合わせるとしています。2027年中に、TM Forumが定める「自律型ネットワーク レベル4」に対応するネットワークの実現をめざすとしています。
自律型ネットワークの段階は、通信事業者の国際的な業界団体であるTM Forumが定めています。レベルは0から5まであり、レベル4は「高度な自律性」と定義されています。AIが状況を予測し、人間の指示がなくても、ネットワークの制御や管理を自分で行う段階です。
今回の混雑時の振り分けは、この方向に沿った取り組みです。編集部の見方では、今回の実証はレベル4へ向かう途中の一歩と読めます。利用者にとっては、こうした仕組みが大規模施設や都市部でどこまで広がるかが次の焦点です。