概要
家計貯蓄率とは、収入のうち消費されずに残った割合を示す指標です。しかし、日本では「国民経済計算」と「家計調査」という2つの統計で、この数値が大きく異なります。
ニッセイ基礎研究所の分析により、この乖離の要因は統計の定義や調査方法の偏りにあることが明らかになりました。私たちは経済動向を判断する際、一つの統計値に依存してはいけません。複数の情報を総合的に見る必要があります。
何が発表された?
2026年10月29日、ニッセイ基礎研究所は「国民経済計算と家計調査の家計貯蓄率はなぜ乖離するのか」と題するレポートを公開しました。
この調査は、現状の乖離に焦点を当てています。
- 2025年時点で国民経済計算の貯蓄率は0.0%です。
- 家計調査(二人以上・勤労者世帯)では35.0%という高水準を示しています。
両統計の乖離要因として、以下の3点を検証しました。
- 対象範囲の定義
- 所得・支出の概念の違い
- 統計上の捕捉・報告誤差
本稿は、家計調査の消費支出が過少報告されている可能性を指摘しました。それを補正することで両統計の乖離が縮まることを示した重要な分析です。
中身をくわしく見ると?
対象範囲の拡大による検証
家計調査の対象を「二人以上・勤労者世帯」から、「無職世帯」や「単身世帯」へと広げて国民経済計算に近づける試算を行いました。
その結果、2025年の貯蓄率は35.0%から25.5%へと低下しました。しかし、依然として国民経済計算との間には大きな乖離が残りました。
世帯構成の変化により、勤労者世帯だけでは家計全体の動向を把握することが困難になっています。その事実が浮き彫りになりました。
所得・支出の概念と捕捉率の比較
両統計を比較すると、家計調査の実収入、非消費支出、消費支出のいずれも国民経済計算を下回っています。
特に非消費支出の捕捉率が実収入よりも低いため、可処分所得の捕捉率は実収入を上回る結果となりました。さらに、消費支出の捕捉率が可処分所得よりも大幅に低いです。これが、家計調査の貯蓄率を高く算出させる主要因となっています。
消費支出の補正による実態の把握
家計調査の消費支出を「家計消費状況調査」を用いて補正しました。すると、2025年の貯蓄率は25.5%から2.2%へと低下し、国民経済計算の0.0%に近づきました。
これは、家計調査における消費支出の過少報告が乖離の大きな要因であることを示唆しています。
数字で見ると?
| 項目 |
2025年貯蓄率(家計調査) |
補正後の貯蓄率 |
変化 |
| 二人以上・勤労者世帯 |
35.0% |
- |
- |
| 補正後(試算) |
- |
2.2% |
32.8ポイント減 |
※出典:ニッセイ基礎研究所「国民経済計算と家計調査の家計貯蓄率はなぜ乖離するのか」
なぜ今?業界への影響は?
個人消費の低迷に対する評価は、どの統計を用いるかによって全く異なる処方箋を導き出します。
貯蓄率が高水準であれば「消費性向を引き上げる」ことが有効です。しかし、貯蓄率が0%に近いのであれば「所得の増加」こそが解決策となります。
今回の分析は、家計調査の数値を鵜呑みにすることへの警告です。経済政策の方向性を誤るリスクがあることを指摘しています(編集部注)。
自分に関係ある?
家計の貯蓄動向は、将来の年金不安や物価高に対する生活防衛の指標として広く注目されています。
勤労者世帯だけでなく、単身世帯や無職世帯の貯蓄率もマイナス幅が拡大傾向にあります。高齢化や未婚化の影響を強く受けています。
家計調査の結果を「世間一般の貯蓄状況」と捉えている場合は注意が必要です。それは特定の層のデータに過ぎません。
特に、自身の家計管理を行う際、家計調査の数値を基準にするのは避けましょう。世帯構成や収入構造が近い統計を参考にすることが重要です。
もう使える?取引できる?
本稿は統計分析レポートであり、直接利用するサービスや製品ではありません。詳細なデータや分析の前提条件については、以下の公式情報をご確認ください。
まとめ
家計調査の高い貯蓄率は、消費支出の過少報告という統計上の特性が影響している可能性が高いです。
個人消費や貯蓄の動向を評価する際は、国民経済計算など他の統計とあわせて総合的に判断する必要があります。
今後は、消費支出の補正を考慮した分析が経済実態を把握するうえでますます重要になるでしょう。