何が発表されたのか
Microsoftは、開発者向けセッションイベント「Fly with Copilot」にて、企業内の組織データおよび業務コンテキストを自律型AIエージェントに接続する新たな統合インテリジェンス層「Work IQ」の技術全貌と関連ツール群を発表しました。本セッションには、デベロッパーアドボケイトのAyca Bas氏、テクニカルアドバイザーのAnthony Shaw氏、Work IQ担当GPMのTolga Kilic氏らが登壇しました。
本発表は研究段階を超えた実用プレビューおよびオープンソース公開の段階にあります。従来の「Microsoft Graph」が個別データの直接的なAPIアクセスを提供するのに対し、Work IQはメール、チャット、カレンダー、会議録、文書等に散在する「組織の文脈」を集約・理解し、AIエージェントが直ちに判断へ活用できる形式に加工して提供します。すでにMicrosoft 365 Copilot内で活用されているほか、外部エージェント開発者向けにREST API、Agent2Agent(A2A)プロトコル、Model Context Protocol(MCP)の3つのアクセス手段が提供されます。
発表された機能・アップデートの全容
Microsoft 365 CopilotにおけるWork IQのコンテキスト統合
Anthony Shaw氏は、Microsoft 365 Copilotアプリ上でWork IQがどのように機能しているかを実演しました。同氏は「Fly with Copilotセッションの準備として、着地させるべき5つのポイントは何か」という自然言語プロンプトを入力しました。
Copilotは単に直近の予定を検索するだけでなく、組織内の35件の関連ミーティング、PowerPointスライド、会議の文字起こしテキスト、チャット履歴を包括的に解析しました。その結果、同氏がBuilding 32から会場であるBuilding 7へ移動する必要があることや、未回答のRSVP状態であること、さらに登壇者のAyca Bas氏やTolga Kilic氏との事前打合せで合意されたアジェンダの文脈まで踏まえた回答を提示しました。プロンプト内に日時や会議名を明示せずとも、Work IQがバックグラウンドで直近の文脈を補完している点が実証されました。
オープンソースダッシュボード基盤「Work IQ OS」と開発ツール
開発者が独自業務アプリ(LOBアプリ)へWork IQを組み込むためのリファレンス実装として、「Work IQ OS(github.com/microsoft/iq-os)」が発表されました。MITライセンスでオープンソース公開される予定です。
画面上のデモでは、パーソナライズされたダッシュボード「Microsoft IQ OS」が提示されました。ここには「Morning Brief(朝の要約)」「Daily Eval(日次の評価)」「Action Items(アクションアイテム)」「Meeting Intelligence(会議インテリジェンス)」といったモジュールが配置されています。これらはWork IQ APIを介してリアルタイムに更新されます。さらに統合されたDev Toolsから「Connect GitHub Copilot」を実行することで、ブラウザ内のセッションと連携し、自然言語でウィジェットのカスタマイズやレイアウト変更を行える開発体験が披露されました。
REST・A2A・MCPに対応する柔軟なマルチプロトコル構成
Ayca Bas氏は、Work IQ APIが提供する接続インターフェースの構造を解説しました。Work IQは「Chat」「Context」「Tools」「Workspaces」の4つの主要コンポーネントで構成されており、裏側にあるMicrosoft 365のMail、Calendar、Teams、Files、Peopleなどの組織知性にアクセスします。
エージェント構築側に対しては、以下の3つの標準チャネルが開かれています。
- REST API: Webアプリやモバイルアプリから直接呼び出し可能な標準的HTTPインターフェース。
- A2A(Agent2Agent protocol): 異なるフレームワークで構築されたエージェント同士が相互運用するためのオープン規格。Linux Foundationのプロジェクトとして運営されており、2026年3月にVersion 1.0が出荷済みです。
- MCP(Model Context Protocol): エージェント向けに最適化されたコンテキスト提供サーバー。10個のジェネリックツールで構成されます。
Microsoft GraphとWork IQの役割分担
開発者から頻繁に寄せられる「Work IQはMicrosoft Graphを置き換えるものなのか」という疑問に対し、Ayca Bas氏は両者の明確な違いを説明しました。
Microsoft Graphは「データアクセス」を担う層であり、200以上のエンドポイントを通じてメールの送信、カレンダー招待の作成、ファイルの取得といった個別データ操作をアプリケーション単位で実行します。一方でWork IQは「インテリジェンス」を担う層です。200ものエンドポイントをLLMに直接提示するとツール選択のオーバーヘッドが過大になるため、Work IQはエージェントが扱いやすいように抽象化された動的ツール(Tools)を提供します。ユーザーの現在の文脈を追跡し、常にログインユーザー自身のアイデンティティの下で動作する設計となっています。
Admin CenterおよびEntra IDによる高度なガバナンスと権限制御
Work IQを企業環境で安全に運用するためのガバナンス機能も示されました。「Microsoft 365 admin center」のAgents/Tools管理画面では、「Work IQ MCP」に組み込まれた個別のツール(ask, fetch, create_entity, update_entity, delete_entity等)ごとに有効・無効をスイッチ切り替え可能です。例えば、AIエージェントに「作成」や「更新」は許可しつつ、「削除(delete)」権限のみを無効化するといった細分化されたポリシー設定が可能です。
また、自作エージェントから利用する際は「Microsoft Entra ID(旧Azure AD)」のアプリ登録(App Registrations)機能を使用します。「Work IQ Consumer」アプリの管理画面において、「WorkIQ.Agent.Ask」などの細分化された delegated(委任)アクセス許可を管理者が明示的に同意(Admin consent)することで、ゼロトラストモデルに準拠したセキュアなデータアクセスが維持されます。
インタラクティブデモによるAPIログの可視化と動作検証
Ayca Bas氏は、Web上で提供されている「Interactive Demo」環境を実演しました。開発者は実環境のテナントまたはサンプルデータセットを用いて、REST API、A2A、MCPの動作を試すことができます。
デモでは「who am I」という簡易な問いをA2Aプロトコル経由で送信し、画面横の「API Log」パネルでバックグラウンドのJSONリクエストとレスポンスをリアルタイムに確認しました。さらにMCPツールのデモでは、「create_entity」を用いてカレンダー予定の追加リクエストを送信する手順が示され、開発者がデバッグやプロンプト調整を行うためのツール環境が整備されていることが示されました。
自作AIエージェント「Margo」による自律的スケジュール調整の実装例
Tolga Kilic氏は、自身が抱える過絶な業務負荷(受信トレイのメール25万通、未読5万通、毎週92〜120件のミーティング招待)を解決するために構築したチーフ・オブ・スタッフ・エージェント「Margo」を実演しました。
MargoはGitHub CopilotとWork IQ MCPサーバーを接続して動作します。リポジトリ内には「SKILL.md」「meeting-prep.md」「preferences.md」などのMarkdownファイルが配置されており、「すべての会議は5分遅らせて開始する」「本人の同意なしにメール送信や削除を行わない」といったグラウンドルール(行動規範)が定義されています。
デモでは、Tolga氏が「明日Aycaと1:1の25分枠をとれるか」と指示すると、MargoはWork IQの「fetch」ツールでカレンダーの空き時間を検索し、1:00 PMと3:05 PMの2枠を抽出しました。その上で招待状の下書きを作成し、「Approve and send invitation」という人間の承認(Human-in-the-loop)ボタンを提示しました。承認ボタンをクリックした瞬間にWork IQ経由で正しく招待状が送信されました。さらにGitHub CopilotのCronジョブと連携し、「Morning Brief」や「Hourly Sweep」として能動的に直近の決定事項や欠話事項を要約・通知する自律ワークフローが提示されました。本リポジトリは「github.com/tolgakai/margo」にて公開されています。




