Microsoft Researchは2026年11月、AIとサイバーセキュリティの境界領域を研究するマイク・ウォーカー氏の解説対談を公開しました。ウォーカー氏は米国防高等研究計画局(DARPA)で、史上初の完全自律型ハッキング大会「Cyber Grand Challenge(CGC)」を主導した人物です。
サイバーセキュリティとは、コンピュータや通信網を不正な攻撃から守るための仕組み全般を指します。本対談では、AIモデルが急速に進化する現代において、企業や組織が直面している根本的な防衛の課題が語られました。
攻撃と防御の境界が消える「パープルチーム」の視点
セキュリティ業界では長年、侵入を試みる攻撃側を「レッドチーム」、侵入を阻む防御側を「ブルーチーム」と呼び分けてきました。しかしウォーカー氏は、この二分法は人工的な区分にすぎず、能力の本質を見誤らせると指摘します。
防御側が自社ソフトウェアの弱点を見つける作業は、攻撃側が脆弱性(安全上の欠陥)を探索する手順とまったく同一です。侵入された後の侵入者が足場を固める行動も、本質的には侵入者自身による「防御活動」といえます。
使うツールも数学的な論理も、攻防の両者で変わりません。誰が鍵を握っているかによって、暗号化ユーティリティが身代金要求ウイルス(ランサムウェア)にもなり、遠隔管理ツールが不正な侵入器具にもなります。
両者を融合した「パープルチーム」の視点を持ち、攻撃側の行動様式を前提に防衛基盤を組み立てることが不可欠になっています。
自律防衛の10年と生成AIによる攻撃コストの激変
2016年にDARPAが開催した「Cyber Grand Challenge」は、人間が一切手を触れず、機械同士が敵陣の脆弱性を探して修正パッチを当てる競技でした。当時はルールベースの専用エキスパートシステム(専門家の知識を規則化したAI)を束ねた設計でした。
それから10年が経過し、技術基盤は根本から一変しました。現代の大規模言語モデルや推論モデルは、従来とは比較にならない抽象度の高い知能を備えています。
かつて高度なサイバー攻撃には莫大な開発費用と希少な専門人材が必要でした。そのため攻撃の発生頻度には自然な上限が存在していました。しかし高性能なAIモデルの普及により、この攻撃コストの制限が崩壊しました。
防御側もまた、従来のような個別パッチの手作業に頼るのではなく、AIエージェントを活用した自律防衛システムを組み上げることが求められています。