Linuxを使うサーバーや機器を運用している人に関係する発表です。OpenAIは、AIがLinuxカーネル(OSの中核部分)の脆弱性を探し、悪用できるかまで確かめる試作の仕組みを報告しました。管理された研究環境での試みで、一般の人が使えるツールとして出されたものではありません。Linuxを使っていない人の端末や設定が、この発表で変わるわけではありません。
カーネルは、Androidの端末やクラウド、スーパーコンピューターなどを支える土台です。コードは4,000万行を超え、攻撃の入口も多いため、研究の対象に選ばれました。
2,308件の候補から948件の攻撃コードまで
試作の仕組みは5段階です。
- 脆弱性の探索:AIが狙われやすい部分を選び、怪しい箇所を候補として挙げる
- 動的な検証:候補を隔離した環境で実際に動かし、問題が起きるかを再現させる
- 悪用の可能性の評価:権限を奪われるかどうかを調べる
- 修正案の作成:脆弱性ごとに修正版のコードを作る
- 人による確認:研究者が攻撃コードと修正案、深刻さを見てから開発者に報告する
最初の段階では、スカウトと呼ばれるAIが、利用者の権限でも届く範囲などから5,034か所を調べる対象に選びました。コードにすると約280万行で、カーネル全体の約7%です。
次に、アナリストと呼ばれるAIが対象のコードを読み、12時間以内に2,308件の候補を挙げました。重複を除いたあとの数です。
候補は、本当に問題があるとは限りません。そこで別のAIが、仮想マシン(1台のパソコンの中に作った隔離された環境)で攻撃を実際に試しました。30時間以内に1,724件が再現し、候補の約74.7%にあたります。
再現できなかったものは、管理者権限が要るものや、競合状態(同時に処理が走って起きる不具合)のように再現が難しいものでした。誤った分析だったのは3.1%です。
次の段階では、再現できた1,724件について、どこまで悪用できるかを調べました。313件が情報の漏えい、1,238件が権限昇格(一般ユーザーが管理者権限を奪う攻撃)の候補でした。
攻撃コードは、一般的なLinuxの防御機能を有効にした仮想マシンで試しました。防御を切った前提では、現実的な評価にならないからです。その結果、情報漏えいの証明コードが291件、権限昇格の攻撃コードが1,169件できました。脆弱性の重複を除くと、権限昇格は948件です。
攻撃コードを166件抜き出して調べたところ、AIは10種類の新しい手法を使っていました。第三者のカーネル専門家も、初めて見る手法だと確認したといいます。内訳は次のとおりです。
- データだけで権限を取る手法:5件
- メモリーの配置を整えて攻撃の安定性を高める手法:2件
- 対象のキャッシュにオブジェクトを撒く手法:2件
- 型の混同を使う手法:1件
安全のため、技術の詳しい中身は公開されていません。
費用も、資料で公開されています。初期の試行は2026年7月末で、GPT-5.6 Solが重複を除いて166件の権限昇格の脆弱性を見つけ、APIの費用は513,690ドルでした(OpenAI公式ブログ、11/5確認)。
- 調べる対象を選ぶ段階:3,426ドル(約542,300円)
- 候補の挙げ方:316,549ドル(約5,010万円)
- 再現の確認:73,330ドル(約1,160万円)
- 初期の絞り込み:44,194ドル(約700万円)
- 攻撃コードを作る段階:775,929ドル(約1億2,300万円)
円換算は(サイソク編集部の計算)。1ドル=158.29円(2026-11-03、ECB参照レートをユーロ経由で計算)の目安で、税別です。資料は、この費用が上限に近い値で、手法を磨けばさらに下がる余地があると説明しています。
成功した攻撃コードは1件平均359ドルで、円にすると約56,830円です(サイソク編集部の計算)。権限昇格の候補は、情報漏えいの候補の約2倍の費用(1件558ドルと271ドル)がかかりました。
過去の大会の賞金で見ると、どうなるでしょうか。Linuxの権限昇格に出された賞金は、Pwn2Ownで2万ドル、TyphoonPWNで7万ドルでした。948件をこの額で当てはめると、1,890万〜6,630万ドル相当になります。資料は、それが費用の約16〜55倍だとしています。ただし、これは仮の評価です。
Googleの懸賞プログラム「kernelCTF」は、攻撃できる範囲を減らしたLinuxが対象です。この条件でも試したところ、112時間、約32,936ドルの費用で、情報漏えいの証明コード25件と権限昇格の攻撃コード21件ができました。21件が受理されれば約150万ドルの報奨金になり、費用の約45倍とされています。2026年に受理された0-day権限昇格の攻撃コードは、執筆時点で26件です。
試作の初期の実行では、成功と判定された200件のうち20件が、割り当てた脆弱性とは別の脆弱性で管理者権限を取っていたと分かりました(OpenAI公式ブログ、11/5確認)。成功の判定も、人が確かめる必要があるということです。
日本の運用担当者が確かめたいこと
修正は、Linuxの開発者(メンテナー)の審査を受けて取り込まれます。資料によると、スキャンと手作業の分析が10日で終わった時点で、次のような状況でした。
- Linux本体に修正済み:61件
- 修正版の準備段階:43件
- 報告や議論が公の場で進んでいる:299件
OpenAIは、Patch the Planetの協力先と、残りの修正を少しずつ送っている段階です。
日本で企業や個人がLinuxを使っている場合は、基本として配布元が出す更新を取り入れることになります(編集部注)。資料も、ソフトを最新に保つことの大切さを挙げています。編集部の見方では、修正が増えている今、更新を後回しにしないことがいちばん確かな対策です。