概要
広島大学の研究チームは、米大リーグ(MLB)の球審がボールカウントによってストライク・ボールの判定基準を変える現象を分析しました。45万球を超えるデータを解析しました。その結果、この判定の偏りが人間の脳の「予測」と「見え方」を組み合わせる情報処理のしくみで説明できると明らかにしました。研究成果は2026年10月5日付の学術誌「Communications Psychology」に掲載されています。
何が発表された?
広島大学大学院人間社会科学研究科の友村光翔さん(研究当時:博士課程前期)と進矢正宏准教授が発表しました。MLBの公式戦における球審の判定データを基にした数理モデルの研究成果です。MLBでは2026年シーズンから、機械による判定確認を行うチャレンジ制度が導入されています。人間の審判が下す瞬時の判断において、なぜボールカウントによる偏り(カウントバイアス)が生じるのかという長年の疑問に対し、脳科学の観点からアプローチしました。
何が分かった?
45万球のデータから見えたカウントによる判定の変化
研究チームは、MLBが公開している投球データ(Baseball Savant)を解析しました。2015年から2024年までの10シーズンにおける、右投手対右打者の直球45万1,172球が対象です。12通りのカウントごとにストライクとボールの判定が半々になる位置(主観的等価点)を求めました。審判の実質的なストライクゾーンの境界を調べたのです。その結果、以下の傾向が内角・外角・高め・低めのすべてで確認されました。
- 打者有利のカウントではゾーンが広がる
- 投手有利のカウントではゾーンが狭まる
脳の予測を組み込んだ数理モデルの構築
審判が「このカウントではこのあたりに球が来やすい」という経験に基づく予測をしています。その予測を、実際の見え方と組み合わせて判断していると仮定した数理モデルを作成しました。このモデルは「ベイズ感覚統合」の理論に基づいています。カウントによるゾーンの広がりや狭まりを再現することに成功しました。とくに高めと外角で高い一致度を示しています。カウント情報を使わないモデルよりも優れていることが示されました。
見え方があいまいな審判ほど予測に頼る傾向
さらに、審判89人を個別に分析しました。その結果、判定のばらつきが大きい審判ほど、カウントによる偏りが大きいという有意な相関が見られました。これは、ベイズ感覚統合の理論が予測通りに働いていることを示しています。見え方があいまいな人ほど経験則である予測に頼るという、人間の脳の合理的な情報処理を示しています。
数字で見ると?
| 項目 |
数値 |
出典 |
| 解析対象期間 |
2015〜2024年の10シーズン |
広島大学 プレスリリース |
| 解析した投球数 |
45万1,172球 |
広島大学 プレスリリース |
| 分析対象となった審判の人数 |
89人 |
広島大学 プレスリリース |
| 高めにおけるモデルの決定係数 |
0.80 |
広島大学 プレスリリース |
| 外角におけるモデルの決定係数 |
0.67 |
広島大学 プレスリリース |
まだ分からないことは?この先は?
本研究は右投手対右打者の直球に限って解析しています。他の球種や投打の組み合わせでも同様に成り立つのかは現時点では分かっていません。今後は点差や審判の疲労といった試合状況の影響も含めて検証を進める予定です。また、機械による判定確認の導入が人間の審判の判断にどのような変化をもたらすのかという点についても検証課題として挙げられています。
(編集部注:スポーツ現場だけでなく医療画像の読影など、人間の瞬時な判断を伴うさまざまな分野への応用が期待されています。)
自分に関係ある?
プロ野球やメジャーリーグのファンにとって、審判の判定が持つ傾向を科学的な視点から知るきっかけとなります。また、人間の認知のクセや、AIや機械と人間がどのように協働すべきかに関心を持つビジネスパーソンや研究者にとっても、意思決定の仕組みを考えるうえで示唆に富む内容です。
見られる?参加できる?
本研究は一般向けの製品やサービスではなく、大学による学術研究の成果発表です。詳細な論文情報やプレスリリースは、広島大学の公式ウェブサイトおよび学術誌「Communications Psychology」のページで確認できます。
まとめ
広島大学の研究チームは、野球の審判に見られるストライクゾーンの偏りが、脳の予測機能に基づく合理的な情報処理であると数理モデルで示しました。今後はさらなる条件での検証や、機械と人間が協働するプロセスの解明が進められる見通しです。読者の皆さんは、公式発表や論文のページにアクセスして詳しい研究背景を確認してみてください。