概要
広島大学の研究グループは、脳腫瘍の一種である膠芽腫の治療前MRI画像から、予後を予測するAIモデルを開発しました。画像データと遺伝子情報を組み合わせ、腫瘍周囲の免疫状態を3群に分類する手法を確立しています。この成果は、将来的な個別化医療や創薬研究に向けた重要な研究基盤となるものです。
何が発表された?
広島大学病院放射線部の河原大輔准教授らの研究グループは、膠芽腫の治療前MRI画像を活用した予後予測手法を開発したと発表しました。本研究成果は2026年9月2日付で米国放射線医学会誌「Academic Radiology」に掲載されています。
膠芽腫は手術や放射線治療を行っても再発しやすく、治療が困難な脳腫瘍です。患者ごとに腫瘍周囲の免疫環境が異なることが、治療を難しくしている要因の一つと考えられています。研究グループは、日常診療で撮影されるMRI画像から得られる特徴を数値化する「ラジオミクス」とAIを組み合わせました。臨床情報だけでは捉えきれなかった予後予測の精度向上を目指しています。
何が分かった?
予後予測精度の向上
研究グループは、合計321症例の治療前MRI画像を使用しました。内訳は以下の通りです。
- モデル構築に使用:223例
- 独立した検証に使用:98例
その結果、予測一致度を示すC-indexは以下の通り変化しました。
- 臨床情報のみ:0.639
- MRI由来の情報を追加:0.730
これは、画像情報の中に臨床情報以上に重要な予後バイオマーカーが存在することを示唆しています。
免疫状態の3分類
遺伝子情報が得られた88例については、T細胞関連遺伝子とIFN-γ(インターフェロン・ガンマ)反応を解析しました。その結果、免疫状態を以下の3群に分類できました。
- Hot型:12例(13.6%)
- Warm型:23例(26.1%)
- Cold型:53例(60.2%)
免疫反応が乏しい「Cold型」が全体の約6割を占めることが明らかになりました。
治療薬候補マップの作成
研究グループは、画像、遺伝子、単一細胞の情報を統合しました。それぞれの免疫状態と既知の治療標的や作用機序を対応させた「治療薬候補マップ」を作成しています。これにより、以下の治療薬について方向性が整理されました。
- 免疫チェックポイント阻害薬
- CAR-T細胞療法
- 血管新生阻害薬
数字で見ると?
研究の規模と予測精度の変化を以下の表にまとめます。
| 項目 |
数値 |
出典 |
| 解析に使用した総症例数 |
321症例 |
広島大学 |
| 予測モデル構築に使用した症例数 |
223症例 |
広島大学 |
| 外部検証に使用した症例数 |
98症例 |
広島大学 |
| 臨床情報のみのC-index |
0.639 |
広島大学 |
| MRI情報を加えたC-index |
0.730 |
広島大学 |
まだ分からないことは?この先は?
今回の3分類や治療薬候補は、あくまで探索段階の研究成果です。現時点で患者の治療薬を直接決定するものではありません。研究グループは、今後は複数施設のより大規模なデータを用いて、予後予測モデルと免疫状態分類の再検証を行う予定です。
また、提示された治療薬候補と実際の治療反応との関係を確かめる臨床的な検証が求められます。(編集部注:将来的には日常診療における個別化治療の指針となることが期待されますが、実用化にはさらなる研究の積み重ねが必要です)
自分に関係ある?
膠芽腫の治療を受けている患者さんやそのご家族、および脳腫瘍治療に携わる医療関係者にとって、将来的な治療の選択肢や精度向上の可能性を示す重要な情報です。ただし、研究成果は現時点で直ちに臨床現場で適用されるものではありません。現在の治療方針に変更が生じるものではありません。
治療に関する疑問や不安がある場合は、必ず主治医に相談してください。
見られる?参加できる?
本研究は学術的な成果発表であり、一般の方が直接参加したり申し込んだりする仕組みはありません。詳細な研究内容は、広島大学のニュースルームおよび掲載された論文「Radiomics-Inferred Immune Programs Map Therapeutic Contexts in Glioblastoma」を参照してください。
まとめ
広島大学はMRI画像とAIを組み合わせた膠芽腫の新しい予後予測手法を開発しました。今後は大規模データによる検証を経て、個別化治療への応用が期待されます。最新の研究進捗については、大学の公式発表を定期的に確認することをお勧めします。