要約版:専門用語を控えて説明しています
何が大変だったのか
素材が多いと、ファイルのやり取りが増えて、修正の伝達が遅くなります。AIで動画を1本作るには4〜5分かかり、その間は画面が止まってしまいます。
AIのモデルごとに指示の出し方が違うため、登場人物の見た目や照明をそろえるのも難しかったとしています。
どう組んだのか
作業を裏側の処理に分けて、画面の操作が止まらないようにしました。素材の保存と配信には、Google Cloudの保存サービスを使っています。動画を作る前に静止画で方向を決めて、費用を抑えたとしています。
発表では、提供範囲は示されていません。料金や提供時期は、まだ発表されていません。
この記事は、動画の制作に生成AIを使う人に向けた、制作の仕組みの実例です。
Movistar Plus+のCMを自分で作る予定がなければ、今すぐ仕事や料金が変わることはありません。
Google Cloudの公式ブログによると、動画制作会社のMitoは、通信大手Telefónicaのグループ会社Movistar Plus+向けに、120秒のテレビCMを作りました。
このCMは、W杯の期間中にスペイン国内の主要なテレビ局すべてで放送されたとしています。
AIで短い動画を1本作るのは、今では難しくありません。
しかし、物語のある長いCMとなると、素材の数が一気に増えます。
Mitoによると、今回は次の規模で作りました。
素材:動画約1,000本を含む5,000点超
修正の往復:約65回
画像:Google Cloud(公式発表 ) 1本のCMで5,000点超の素材を回した理由
問題は、素材を作ること自体より、管理と共有でした。
Mitoは、制作者それぞれのパソコンに素材を置く方式では「拡張できない」と説明しています。
修正を伝えるにも、ファイルをダウンロードして、Google Drive(オンラインの保存サービス)にアップロードし、チャットやメールで説明する必要がありました。
時間の壁もありました。
Mitoの説明では、AIで短いクリップを1本作るのに4〜5分かかります。
これを画面の操作と同じ流れで待つと、作業が止まり、制作のテンポが落ちます。
さらに、AIモデルごとに指示の出し方が違います。
登場人物の見た目、照明、カメラの角度を何十カットにもわたって保つのは難しいとしています。
料理人のフェラン・アドリア氏など、実在の人物の顔立ちを守る必要もありました。
一般向けの従量課金のAPIを使うと、混み合う時間帯に利用上限や処理量の制限にかかるおそれがあったとも説明しています。
共有画面と裏側の処理を分けた構成
Mitoは、画面の操作と、動画を作る重い処理を分けました。
API(アプリの機能を呼び出す仕組み)と裏側の作業係は、Cloud Runという仕組みでJavaのサービスとして動かしています。
Cloud Runは、アクセスの量に合わせて動かすサーバーを増減させる仕組みです。
作業の受け渡しには、Pub/Sub(処理の連絡を配る仕組み)を使いました。
動画の生成は裏側のワーカーに任せ、制作者は画面の上で作業を続けられます。
生成が終わった素材は、Cloud Storage(ファイルの保存先)に置き、Cloud CDN(ファイルを利用者の近くから配る仕組み)で配ります。
公開前の素材は、期限つきの署名で外からは見えないようにしたとしています。
AIモデルを呼び出す先は、Vertex AI(Google Cloud上でAIモデルを使う基盤)です。
Omni、Veo、Nano Bananaといったモデルを使い分けています。
指示文の項目は、世界、カメラ、照明、質感、動き、登場人物の6つに絞る「Rule of 6」を採用しました。
さらに、先に静止画を作り、そのあとで動画にすることで、費用を抑えたとしています。
Mitoの中核にあるAIディレクターは、会話で受けた指示を、各モデルの細かい設定に変換します。
Sonnet、Gemini、音声を担当するElevenLabsなど、複数のモデルに仕事を振り分けます。
品質の確認には、Geminiを審査役にした評価の仕組みを使いました。
動画は、通常の自動テストだけでは良し悪しを判断しにくいためです。
審査の仕組みは、AIディレクターの出力が利用者の意図に合っているかを見るものです。
CMの物語には、AIが指示を誤解する場面をあえて入れています。
コーチの台詞がAIによって「In the same milkshake」(意味の通らない台詞)になります。
主人公が指示を「In the same heartbeat」に書き換えると、映像がすぐに直るという筋です。
Mitoは、こうした不完全さを残すことで、生成AIで人の物語を際立たせられると説明しています。
Mitoは、自社の制作会社Mito Filmsでも、この道具を大口の案件で試しているとしています。
テレビCMのほか、ロボット系スタートアップの基調講演も手がけたと説明しています。
試した結果は、開発チームにすぐ戻す流れだとしています。
将来については、生成にかかる時間が数分から数秒に縮まる見込みも示しています。
次の世代のAIモデルや、個人向けの配信にも対応できる設計だと説明しています。
ただし、これは設計上の見込みで、具体的な時期は示されていません。
編集部の見立てでは、この事例で参考になるのは、AIの出来栄えより素材の管理方法です。
動画生成を仕事に入れるなら、素材の置き場所と修正の共有方法を先に決めておくと、後の手戻りを減らしやすくなります。